腎臓の細胞は様々なメカノ刺激に晒されているが、その感知応答機構は不明な点が多い。昨年度はマウスの腎臓におけるPiezo2発現部位を同定し、脱水モデルにおける発現変化を明らかにした。今年度は糸球体内圧が上昇する高血圧性腎障害ラットの腎臓におけるPiezo2発現変化ならびに降圧薬治療の影響について検討した。食塩負荷Dahl食塩感受性ラット(DSH)や食塩負荷脳卒中易発症自然発症高血圧ラット(SHRSP-H)では高血圧、糸球体障害、腎硬化を発症しやすく、その成因として糸球体高血圧の関与が提唱されている。対照群である通常食飼育のDahl食塩感受性ラット(DSN)やWistar Kyotoラット(WKY)の腎臓ではPiezo2 mRNAは主に糸球体メサンギウム細胞と傍糸球体レニン産生細胞に発現していた。DSHやSHRSP-Hでは高血圧、蛋白尿、糸球体障害・血管障害などの腎病理変化、線維化関連マーカーの上昇を認め、メサンギウム細胞やレニン産生細胞におけるPiezo2発現は増加し、さらに血管外膜のPdgfrb陽性、Collagen 1/3陽性の間葉系細胞(おそらく線維芽細胞)にも強発現していた。食塩負荷と同時に非ステロイド型選択的鉱質コルチコイド受容体ブロッカーであるエサキセレノンを投与したラット(DSH+E)では血圧、腎病理所見、線維化関連マーカーの増強は有意に改善し、糸球体領域のPiezo2発現増加は低減し、血管周囲のPiezo2陽性細胞は認められなかった。全身血圧は上昇するが、糸球体高血圧、腎障害を発症しない自然発症高血圧ラット(SHR)ではPiezo2発現亢進は認められなかった。初代培養メサンギウム細胞でPiezo2ノックダウンと伸展刺激によりTgfb1発現は相加的に上昇した。以上より、Piezo2が高血圧性糸球体硬化や血管障害、腎硬化の発症過程に関与する可能性が示唆された。
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