研究課題/領域番号 |
20K08621
|
研究機関 | 藤田医科大学 |
研究代表者 |
深澤 元晶 藤田医科大学, 医学部, 講師 (70387728)
|
研究分担者 |
長尾 静子 藤田医科大学, 疾患モデル教育研究サポートセンター, 教授 (20183527)
山田 雅之 藤田医科大学, 保健学研究科, 教授 (40383773)
高橋 和男 藤田医科大学, 医学部, 教授 (90631391)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 糖尿病性腎症 / 脈絡叢 / 脳脊髄液 / 透過性 / アストログリア / 側脳室 |
研究実績の概要 |
糖尿病に伴う腎不全患者において広く見られる脳機能障害は、患者の治療管理上で重大な問題となるが、その治療は十分でない。糖尿病の患者では、トリプトファンの代謝が変化し、代謝物の一つであるキヌレニンが増加する。キヌレニンの代謝物は脳内で炎症に伴い増加し、統合失調症や認知症などに関与する。本研究は、糖尿病性腎症における認知機能障害の原因がキヌレニン代謝異常であることを検討するため、病態における腎機能、認知機能、トリプトファン代謝を経時的に測定し、これらの因果関係を明らかにする。 本年度は糖尿病モデルラット(SDTFattyラット:Fat)および片腎摘出を行い作製した糖尿病性腎症モデルラット(Fatx)を用いてより症状進行の早い段階で一連の行動実験を行った。両実験群は正常群と比して低活動性を示し、うつ様傾向が示唆された。また、認知機能の低下傾向が示された。実験群間の差は見られなかった。一方で、海馬歯状回における神経細胞の活動(ΔFosBの局在)およびアストログリアの活動(GFAPの局在)は正常群に比して低下しており、特にFatx群における低下が有意であった。 前年度のマンガン増強化核磁気共鳴(MEMRI)測定によりFat群における神経活動の低活動あるいは脳の体液透過性の低下が示唆された。また、脳脊髄液中の一次代謝物の成分分析の結果、Fat群とFatx群で著名な差が示された。これらから、脳脊髄液が産生される脈絡叢における体液透過性に着目した。脈絡叢上皮において、タイト結合の指標であるZO-1の局在に差はなかった。一方、細胞膜の透過性の指標であるPV1の局在はFat群で有意に低下していた。これらから、Fat群とFatx群では脈絡叢上皮の細胞膜透過性が異なり、脳脊髄液の成分の差が生じている可能性が示唆された。脈絡叢の透過性が側脳室周囲の微小環境に及ぼす影響について解析を進めたい。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
行動実験:昨年度は実験群がほとんど運動せず測定困難な項目があった。本年度は病態のより早い段階で活動量が大きく低下する前に行動実験を行うことにより、測定は可能となった。その結果、実験群における活動量の低下と認知機能の低下傾向が示され、しかし両群に差はないことが示された。 組織的解析:前年度のマンガン増強化核磁気共鳴(MEMRI)測定によりFat群における神経活動の低活動あるいは脳の体液透過性の低下が示唆された。また、脳脊髄液中の一次代謝物の成分分析の結果、Fat群とFatx群で著名な差が示された。これらから、脳脊髄液が産生される脈絡叢における体液透過性に着目した。脈絡叢上皮において、タイト結合の指標であるZO-1の局在に差はなかった。一方、細胞膜の透過性の指標であるPV1の局在はFat群で有意に低下していた。これらから、Fat群とFatx群では脈絡叢上皮の細胞膜透過性が異なり、脳脊髄液の成分の差が生じている可能性が示唆された。脈絡叢がある側脳室の上皮下は神経新生の場であるが、神経新生の指標であるDcxの局在はFat群で有意に低下していた。また、海馬歯状回における神経細胞の活動(ΔFosBの局在)およびアストログリアの活動(GFAPの局在)は正常群に比して低下しており、特にFatx群における低下が有意であった。一方、ミクログリアの活動(Iba1の局在)に変化はなく、炎症反応が示されなかった。これらから、「脈絡叢の透過性の変化が側脳室周囲の微小環境を変化させ、脳組織内の神経細胞とアストログリアの活動性に影響している」という仮説が得られた。
|
今後の研究の推進方策 |
「糖尿病性腎症の進行により脈絡叢の透過性が変化し、側脳室周囲の微小環境を変化させ、脳組織内の神経細胞とアストログリアの活動性に影響する」という仮説が得られた。今年度は糖尿病性腎症の病態がより進行した状態における脳を脈絡叢の透過性を軸に解析する。蛍光標識デキストランを用いて脈絡叢および血管の透過性を検討する。また、脳組織/脳脊髄液におけるトリプトファン代謝物の動態を再検討し、神経保護作用/炎症作用との関連を検討する。また、脈絡叢の透過性を変化させる薬剤を脳室内投与することにより脳機能の改善を試みる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
想定以上に安く購入できたため。
|