研究課題/領域番号 |
20K08624
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研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
塚口 裕康 関西医科大学, 医学部, 講師 (60335792)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 疾患遺伝子 / 難病 / 核膜 / 腎不全 / ポドサイト |
研究実績の概要 |
【背景】近年核膜機能や構造異常が、ネフローゼ、心筋症、神経発達障害などのさまざまなヒト疾患の原因となることが注目されている。核膜孔を介する核-細胞質間の輸送や、核膜を支える細胞骨格は、細胞の分化・生存など生命活動に必須の役割を担う。先行研究において、核膜孔複合体を構成するヌクレオポリンNUP107, NUP133のbiallelic 変異により、巣状分節性糸球体硬化症や、中枢神経形成異常が起こることを報告した(Am J Hum Genet 2015, Annual Neurol 2018)。 しかしヌクレオポリン遺伝子の変異による疾患群、いわゆるNucleoporinopathyは、表現型(臓器特異性,重症度)は多様性に富み、複数の分子間の相互作用や、シグナル伝達のクロストーク等、まだ未解決の機序の関与が想定される。 【目的】本研究では「核膜がどのように細胞の分化、器官形成、生命維持に関わるか?」という疑問について、ヒト患者家系のサンプルを用いて遺伝学的解析を行い、病態の解明に取り組む。とくに腎疾患に限定せず、終末分化細胞であるために再生困難で、細胞死に至りやすい、神経細胞、心筋細胞、ポドサイトなどを主座とする疾患群の遺伝子変異を探査し、Nucleoporinopathyに共通する生命現象を明らかにする。 【方法】核膜異常が関与しうる“3主要疾患群”(糸球体硬化症、心筋症、神経発達障害)における、核膜関連遺伝子について次世代シークエンサを用いて、全ゲノム or エクソン解析を行い、病因変異を網羅的に探索する。病因性がはっきりしないVUSについては、培養細胞を用いたトランスフェクションを行い、細胞の形態的変化を観察、さらに生化学的にもシグナル伝達系の変化を調べる。また遺伝子編集疾患モデルマウスを用いて個体レベルでの病態機序を解析する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請課題の対象となる核膜異常が想定される症例(腎不全、心筋症、神経発達障害、さらにその組み合わせ等)を、本学附属病院臨床遺伝センターにおいてカウンセリングを実施するとともに、病歴情報と血液検体を収集した。ゲノムDNAは倫理委員会承認のプロトコールに従い、発端者以外にも両親、同胞からも採取した。10症例のトリオサンプルを対象とした全ゲノムシークエンスを行い、現在候補遺伝子の絞り込みを行っている。 疾患遺伝子を特定するためには、臨床表現型の解析も重要であり、組織サンプルにおけるゲノム情報、転写物や蛋白の発現プロフィールを検討している。生検病理標本のパラフィンブロックから核酸(DNA, RNA)抽出して、シークエンスを行った。またパラフィン病理切片の免疫染色、電顕観察などを実施した。研究計画の3年間で、目標の症例はほぼ達成できている、と考えている。また検出されたバリアントの病原性の検証(アレル頻度、変異予測プログラム)、バイオインフォマティクス(パスウェイ解析)は、本学生命医学研究所ゲノム解析部門との共同研究で、効率的に行うことができた。今後も症例を増やす予定である。
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今後の研究の推進方策 |
3年間の研究期間において、まだ疾患機序のわかっていない多臓器機能不全の症例の臨床情報と血液検体収集できた。これらの症例には、中枢神経、腎、心などの再生しがたい、高度分化細胞で構成される臓器の機能不全があり、核膜をはじめとする細胞の生存の機能に必須のプロセスの異常が疑われる。 今後核膜異常が関わる疾患群の診断や治療開発のためには、分子間相互作用を含めた病態理解が必要と考えられる。今回の疾患横断的研究で得られた、核膜異常症を起こす分子群は、物理的に会合して複合体を形成する、あるいは細胞骨格と連結して、さまざまな核と細胞質間シグナル制御に関係する可能性がある。 患者全ゲノムシークエンスによって、疾患を起こす病原性がはっきりしないVUS(variant of unknown significance)もいくつか検出されており、その意義を明らかにすることが今後の課題と考えている。まずは培養細胞系を用いて、疾患バリアントを細胞に発現させ、その局在、オルガネラとの相互作用とその特性(アクチン細胞骨格、微小管機能、核膜輸送、ミトコンドリア機能等)、シグナル伝達(増殖、アポトーシス、極性等)などを検討する予定である。疾患バリアントの中には、組織を構築して始めてその異常を観察できるものがあるかもしれない。その際には3D-オルガネラ培養系を用いる、あるいはマウスゲノム編集を行うなどの、共同研究を考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ蔓延などの理由で一部の研究計画は、実施できなかったため、次年度使用額を生じた。今後申請研究の成果発表のために必要となる、追加実験用消耗品(酵素、試薬、培地等)の購入、論文発表のための英文校正、出版費等に使用予定である。
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