研究実績の概要 |
本研究では、近位尿細管における低酸素誘導因子 (hypoxia-inducible factor: HIF) が、急性腎障害 (AKI) 後に高頻度で生じる慢性腎臓病 (CKD) の病態進展 (AKI-CKD移行) に及ぼす影響を検討している。本目的のため、近位尿細管特異的プロリン水酸化酵素 (prolyl-hydroxylase domain: PHD) 遺伝子ノックアウトを作成し、虚血再灌流障害を惹起した。前年度までの研究において、同ノックアウトマウスではCKDへの移行が認められる第28病日においてBUN, Cre値が低下してアルブミン尿も減少していたことから、近位尿細管でのHIFの活性化による腎障害の軽減が示唆された。よって本年度は、腎障害の軽減を組織学的に実証するとともに、HIFの活性化がAKI-CKD移行における尿細管修復・再生過程を促進する機序を検討した。picro-Sirius red染色によって線維化の評価を行ったところ、同ノックアウトマウスでは腎線維化が軽減していた。また、リアルタイムPCRおよびウエスタンブロットによるαSMAおよびcollagen I, IIIのmRNA/タンパク定量評価によっても同様の傾向が確認され、近位尿細管のHIFは腎線維化を軽減する可能性が示唆された。また、ノックアウトマウスではKi-67陽性細胞数・リン酸化ヒストンH3陽性細胞数が有意に増加していたことから、AKI後の尿細管再生の亢進促進が腎機能の改善に寄与した可能性も示唆された。今後、尿細管細胞のturnoverのもう一つの側面である細胞死に注目し、近位尿細管におけるアポトーシスの定量評価を追加する予定である。
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