研究課題
本研究では、近位尿細管で発現する低酸素誘導因子HIF-1が、急性腎障害 (AKI) 後に高頻度で生じる慢性腎臓病 (CKD) の病態進展 (AKI-CKD移行) に及ぼす影響を検討した。近位尿細管特異的プロリン水酸化酵素 (PHD) 遺伝子ノックアウトマウスに対して虚血再灌流障害を惹起したところ、CKDへの移行期において腎障害が軽減し、線維化の改善が認められた。本ノックアウトマウスではKi-67陽性細胞数が有意に増加していたことから、AKI後の尿細管修復・再生機序の活性化が障害軽減に寄与した可能性が示唆された。一方で尿細管細胞の細胞死をTUNEL染色で評価したところ、群間差は認められず、近位尿細管のHIF-1がアポトーシスに及ぼす影響は限定的と考えられた。さらに、近位尿細管特異的PHDノックアウトがCKDへの移行を抑制する分子機序を検討した。AKI-CKD移行期において、障害を受けた近位尿細管ではIL-6, IL-1βやTNF-αなどの炎症性サイトカインやTGF-βをはじめとする向線維化物質が産生されるが、これらの産生は細胞周期G2/M期にある尿細管細胞で多いことが報告されている。そこで本研究では、細胞周期のG2期からM期への後期移行と強く相関するリン酸化ヒストンH3に注目して陽性細胞数を評価したところ、ノックアウトマウスにおいて陽性細胞数が有意に増加していた。これらの検討結果により、近位尿細管のPHD阻害によって局所のHIF-1が活性化すると、AKI後の尿細管修復・再生過程において細胞周期G2期からM期への移行が促進されることで抗炎症・抗線維化作用をもたらし、CKDの病態軽減につながったものと考えられた。
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