研究課題/領域番号 |
20K08627
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研究機関 | 国際医療福祉大学 |
研究代表者 |
丸茂 丈史 国際医療福祉大学, 医学部, 教授 (70265817)
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研究分担者 |
西本 光宏 国際医療福祉大学, 国際医療福祉大学三田病院, 准教授 (90646572)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 糖尿病性腎症 / エピジェネティック / DNAメチル化 |
研究実績の概要 |
本研究は、糖尿病と高血圧の発症・進展に関わるエピジェネティクス機構を明らかにして、それに基づいた治療・診断の足掛かりを築くことを目的としている。エピジェネティクスの主要な要素であるDNAメチル化は、各臓器に特異的なパターンを形成して臓器固有の遺伝子発現に関わる。臓器に特異的なDNAメチル化パターンは、各臓器のマーカーになるため、臓器障害の診断に利用できることが最近示された。尿中には腎臓から細胞が落下してくるため、腎臓特異的なDNAメチル化パターンを利用すれば、腎臓障害を非侵襲的に診断することができると思われた。 そこで、腎臓の構成細胞を分取し、近位尿細管で特異的に低DNAメチル化を示す遺伝子部位を同定した。この部位のDNAメチル化を近位尿細管のマーカーとして利用し、糖尿病症例の尿沈渣中DNAメチル化値を計測したところ、eGFRの変化率と有意に相関し、腎機能の悪化と関連することが明らかになった。この結果に基づき、糖尿病症例のなかで腎機能が悪化する症例を見分ける能力を検討した。eGFRと尿中アルブミンによる腎機能悪化判別能に比べ、尿中DNAメチル化をこれら2つの指標に加えることにより、有意に判別能が上昇することが明らかになった。この結果は、尿のDNAメチル化解析が、糖尿病患者のなかで腎機能悪化している患者を判別するために有用であることを示しており、論文発表した(BMJ Open Diabetes Res Care. 8 (1), e001501, 2020)。 また、糖尿病による腎障害の進展へのエピジェネティクス機構の関与を調べるために、DNAメチル化レベルでの検討を進めた。今年度、糖尿病性腎症患者の腎生検サンプルおよび、腎がんで摘出した腎臓の正常組織からDNAを抽出し、条件設定を行いInfinium methylation EPIC kitによるDNAメチル化の解析を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究で、腎臓の近位尿細管のエピジェネティックなマーカーであるDNAメチル化を同定し、それを利用して糖尿病患者の腎機能悪化の診断が可能であることを示して、論文発表した。得られた結果を踏まえて、さらに有用なマーカーの検討へと発展させている。本研究は、腎臓病に対するエピジェネティック尿解析の分野を開拓する一歩になると思われる。 また、糖尿病性腎症の進展に関わるエピジェネティック機構を明らかにするために、組織学的に診断された糖尿病性腎症の腎組織の採取を着実に進めた。網羅的DNAメチル化解析が可能となる条件を比較検討して最適条件を決定した。その条件にしたがい、正常例9例、糖尿病性腎症11例のメチロームデータを取得し、内容の解析を進めている。糖尿病腎症によってDNAメチル化が変化する遺伝子が明らかになってきている。得られた遺伝子に着目した、in vitro実験も計画しており、これら今後の検討により、糖尿病性腎症進展に意義のあるエピジェネティック異常を示すことができると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
尿中DNAメチル化解析による腎機能悪化症例の判別について、新たなマーカーの検討を進める。これまでに判明している近位尿細管メチル化マーカーに加えて、別の近位尿細管マーカーの検討を行う。既存のマーカーとの比較、明らかにしたDNAメチル化マーカーとの比較、パネル化による判別能との比較などを行う。また、より精度の高い解析をめざして、多角的な検討を加える。解析法についても、これまで行ってきた島津製作所MultiNAを用いた定量的COBRA法に加え、パイロシークエンス法などの手法も取り入れる。 糖尿病性腎症のDNAメチル化異常については、これまでに得られたメチロームデータ検討を進め、異常候補遺伝子の絞り込みを行う。特定のパスウェイに集積したDNAメチル化異常にとくに着目して検討を進める。新たな症例の組み入れも引き続き進める。得られた異常遺伝子については検証を行い、腎症によって生じるエピジェネティック異常を明らかにする。さらに、in vitroによる検討などを進めて、得られたDNAメチル化異常遺伝子の意義を明らかにする。 糖尿病性腎症および高血圧の腎臓合併症として生じる腎硬化症では腎臓の虚血が腎障害の進展に重要な役割を果たすことが知られている。腎虚血による腎障害に関わる因子をエピジェネティックな観点から検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度はこれまでに得られたデータを用いた解析を行い、比較的支出をおさえて、研究を進めることができた。余剰金は、次年度以降に必要となる消耗品を中心に使用する予定である。
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