研究課題/領域番号 |
20K08631
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
内村 幸平 山梨大学, 大学院総合研究部, 講師 (00646119)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | iPS細胞 / オルガノイド / 細胞アッセイ |
研究実績の概要 |
2014-15年にかけて日本人研究者を中心にヒト多能性幹細胞からの腎臓オルガノイド作製に関する論文が相次いで報告された。同時期に新たな実験手法としてscRNA-seqが開発され、これまで臓器間や培養細胞の集団間で比較していた遺伝子産物プロファイリングを単一細胞レベルで解析することが可能となった。申請者は代表的な2つの誘導法によって作製した腎臓オルガノイドと成人腎に対してscRNA-seqによる比較検討を行ったところ、①後腎間葉に由来するネフロン(糸球体―近位尿細管―遠位尿細管)構成細胞は存在するものの、尿管芽から発生する集合管細胞は検出できない、②成人腎と比較し、糸球体細胞以外は分化が未熟であることを明らかにした。申請者は腎臓オルガノイドを病態モデルやドラッグスクリーニング等の医療応用へ発展させるためにはこれらの問題を克服する必要があると考え、新規腎臓オルガノイドの誘導法を開発した。新たに開発した腎臓オルガノイドは集合管細胞を含んでいることをscRNA-seqで証明し、更にはバソプレシン処理によるAQP2の管腔側細胞膜表面への移行や低浸透圧培養液による主細胞の膨張によってヒトiPS細胞から分化した集合管細胞は生理的機能を有することも確認した(生理学的観察が可能)。また、近位尿細管障害の特異的マーカーであるKim-1やNGALのシスプラチンによる発現誘導もタンパクレベルで確認している。 本研究ではヒトiPS細胞由来腎臓オルガノイドを腎疾患モデルとして活用することを目的に様々な病態モデルを培養ディッシュ上で再現することを試みる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
COVID-19の影響によりヒトiPS細胞の分与や使用する細胞株に対する分化誘導法の微調整に想像以上の時間を要したため、ヒトiPS細胞由来腎臓オルガノイドを用いた腎臓病病態モデルの確立には至っておらず、今後の挽回に全力を尽くす。
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今後の研究の推進方策 |
既存の腎臓オルガノイドや申請者が開発した腎臓オルガノイドをIgA腎症患者の血清で処理しても糸球体構造内にO型糖鎖不全型IgA1の沈着は認められられなかった。scRNA-seqの解析や免疫染色で確認すると腎臓オルガノイドの糸球体内にメサンジウム細胞が存在しておらず、腎臓オルガノイドをIgA腎症モデルとして確立するためにはメサンギウム細胞への分化誘導とオルガノイド自体の分化の成熟化が必要と判断した。 近年、腎臓オルガノイドをマウス腎被膜下への移植することで、糸球体内へマウスの血管が侵入し、原尿を産生すると報告されている(Kimberly et al. Nature Methods 2019)。しかしながら、培養ディッシュ上で糸球体内へ血管を侵入させて原尿の産生に成功したという報告は未だ無い。そこで申請者は糸球体内への血管侵入、メサンギウム細胞への分化、糸球体構造の成熟化に関連するシグナルや因子を網羅的に探索する目的に、マウスへ移植した腎臓オルガノイドと培養ディッシュ上で作製した腎臓オルガノイドをscRNA-seqで比較し、現在候補因子の絞り込みを行っている。未だ、候補因子の同定には至っていないが、将来的には移植した腎臓オルガノイドを含んだマウス腎臓の切片から空間的トランスクリプトーム解析を行うことで、マウス腎臓とヒトiPS細胞由来腎臓オルガノイドとの境界部分のkeyとなる遺伝子変化を観察することを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19パンデミックの影響および研究室の再編により実験の進捗が遅れ、物品購入も次年度へ持ち越しとなってしまったため。
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