研究課題
多発性嚢胞腎(PKD)のモデルラットであるPCKラット(ヒト常染色体優性多発性嚢胞腎と同様に、腎臓と肝臓に嚢胞形成を認める)の腎組織中にザイモグラフィーによりある種のセリンプロテアーゼ(SP)活性の亢進を認め、このSPを同定した。このSPの活性を抑制する合成SP阻害薬(SPI)を混餌投与することにより腎組織中のSP活性の低下を認め、腎嚢胞増大抑制効果と腎不全抑制効果を確認した。PCKラットで上昇した腎組織中の炎症・線維化関連分子の発現亢進はSPIにより抑制されていた。このSPはproteaseactivated receptor(PAR)を介して細胞増殖や炎症・線維化、アポトーシスを亢進することが報告されているが、PCKラットにおいてもPARの発現亢進と下流のシグナルであるERKの活性化を認め、SPIはこの系の活性化を抑制した。さらにSPIはアポトーシス細胞の増加やEGFシグナルも抑制していた。またSPはマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)を活性化することが知られており、MMPが嚢胞増大に関与していることが報告されている。PCKラットの腎組織中でMMPが活性化しており、SPIにより抑制されていた。SPIが多面的な効果により嚢胞増大を抑制していると考えられた。このSPIを正常ラットに投与すると尿エクソソーム中AQP2の減少を伴う水利尿を認めたが、PCKラットではむしろ増加した尿量を減少させた。さらに、SPIはPCKラットの肝嚢胞の増大も有意に抑制していた。その機序として、SPIはPCKラットの肝臓のアポトーシス細胞の増加や炎症・線維化関連分子の発現亢進を抑制していた。臨床的には肝嚢胞に対して有効な治療薬は未だ存在しないが、SPIがPKD患者の腎嚢胞と肝嚢胞の増大を抑制する新たな治療薬となる可能性が示唆された。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
Journal of Pharmacological Sciences
巻: 150 ページ: 204~210
10.1016/j.jphs.2022.09.003