研究課題
糖尿病腎症の病態解明と新たな治療法の確立は、学究的な側面のみならず、透析医療を取り巻く経済的側面からも急務となっている。低分子量G蛋白Rhoの下流分子であるRho-kinase (ROCK)は、細胞形態や遺伝子発現を制御するserine/threonine kinaseである。我々は、糖尿病のマウスおよびヒト腎組織でROCKシグナルが活性化される点に着目し、ROCKの阻害が糖尿病腎症の進展を抑制することを報告した。さらに、ROCKアイソフォームに対する選択的な治療アプローチが、腎構成細胞のエネルギー代謝改善に有効であることを予備的な検討において見出した。本研究は、尿細管間質で高度に発現するROCK2アイソフォームに着目し、これを介したエネルギー代謝異常による糖尿病腎症の発症機序を解明することを目的とする。本研究の成果は、ROCK2を標的とした糖尿病腎症の治療薬開発につながるものである。ROCK2は全身に発現し、多彩な作用を担っている。そのため、腎組織での役割を解明するには臓器特異的遺伝子改変動物の入手が不可欠であり、本研究では尿細管上皮特異的ROCK2欠損マウスの作製に取り組んだ。我々が独自に樹立したROCK2 floxマウスと、腎尿細管上皮細胞にCre recombinaseを発現するSlc5a2-Creマウスを交配し、尿細管上皮細胞特異的ROCK2欠損マウス(TR2KO)の作製に成功した。
2: おおむね順調に進展している
ROCK2 floxマウスと、腎尿細管上皮細胞にCre recombinaseを発現するSlc5a2-Creマウスを交配し、尿細管上皮細胞特異的ROCK2欠損マウス(TR2KO)の作製に成功した。現在安定的に系統を維持しており、TR2KOの表現型解析を開始している。
尿細管上皮細胞特異的ROCK2欠損マウス(TR2KO)の腎機能と尿細管間質の形態を観察し、ROCK2欠損によって生じる表現型を確認する。次に、TR2KOに対し、膵β細胞を破壊するストレプトゾトシンを腹腔内投与することで、インスリン欠乏を主徴とする1型糖尿病モデルマウスを作製する。尿中アルブミン排泄量の増加と腎組織の形態学的変化から、腎症の発症・進展における尿細管ROCK2の役割を明らかにする。間質病変が顕著に見られない場合は、片側尿管結紮による負荷を加える。さらに、レプチン受容体に変異を持つdbマウスとの交配から、インスリン抵抗性を呈する2型糖尿病モデルマウスを作製する。dbマウスとの交配が予定通り進まない場合は、60%高脂肪食投与によって腎症を誘導する。尿中アルブミン排泄量と腎組織形態の変化から、糖尿病の病型を問わず、ROCK2が腎症進行に関与するか否かを検討する。マウス腎組織から尿細管上皮細胞を分取し、RNA-Seqによる遺伝子発現プロファイリングを行う。ROCK2欠損によって変化するtranscriptomeから、尿細管間質病変の表現型差異を決定する遺伝子群を同定する。また、脂肪酸を基質として利用するミトコンドリア呼吸の変化をflux analyzerを用いて明らかにする。
2020年度は尿細管上皮特異的ROCK2欠損マウスの作製に取り組んだが、交配が順調に進んだため、動物飼育費と遺伝子型解析費に未使用額が生じた。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 6件) 図書 (6件)
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