研究課題/領域番号 |
20K08646
|
研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
赤坂 英二郎 弘前大学, 医学部附属病院, 助教 (30436034)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 栄養障害型表皮水疱症 / 線維化 / TGF-beta / VII型コラーゲン / マトリックスメタロプロテイナーゼ / インテグリン / トロンボスポンディン-1 / 活性酸素 |
研究実績の概要 |
劣性栄養障害型表皮水疱症(RDEB)では、真皮と表皮の接着に必須な係留線維の主成分であるVII型コラーゲン (C7) の遺伝的異常により、真皮表皮の接着が脆弱となり、軽微な外力で全身の皮膚粘膜に水疱・びらんを形成する。また皮膚損傷と瘢痕治癒のサイクルを繰り返すことで、指趾の棍棒状癒着、関節拘縮、食道狭窄など著明な線維化をきたすことが特徴である。RDEBに対する有効な治療法は存在しない。 一般に、種々の臓器の線維化はTGF-βシグナルにより引き起こされる。RDEBにおいてもTGF-βを標的とした治療でRDEBにおける皮膚線維化を抑制することができると考える。そのためには、RDEBの疾患特異的なTGF-βシグナル活性化機構を解明しなければならない。TGF-βは非活性型のLatent TGF-βとして分泌され、Latent associated protein (以下LAP) からmature TGF-βが切り離されることで活性型となる。このLatent TGF-βの活性化はプロテアーゼ、インテグリン、トロンボスポンディン1(TSP-1)、活性酸素などの様々な因子により促進されることが知られている。われわれは、これらの因子がRDEBにおいてどのようにTGF-βシグナル活性化に関与しているか検討した。まずRDEB患者皮膚線維芽細胞および皮膚角化細胞を用いて、TGF-βシグナルが健常人由来の線維芽細胞や角化細胞と比較して、TGF-βシグナルが活性化し、線維化関連タンパクの発現が亢進していることを明らかにした。さらに、各種活性化因子の阻害剤やsiRNAを用いて、主たる活性化メカニズムを同定した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
培養細胞を用いた実験系では、RDEB皮膚線維芽細胞(RDEBF)と正常皮膚線維芽細胞(NHF)をLatent-TGF-βで刺激した場合、RDEBFではTGF-βシグナル活性が有意に上昇していた。各種TGF-βシグナル活性化因子発現量や活性は、RDEBFにおいて、NHFと比較して総じて有意な上昇がみられた。各種TGF-βシグナル活性化因子の阻害剤やSiRNAを用いた実験系では、ROS阻害剤やMMP-2およびインテグリンβ5のSiRNAがRDEBFのTGF-βシグナル活性を有意に抑制した。またRDEB角化細胞(RDEBK)においても、正常角化細胞(NHK)と比較して各種TGF-βシグナル活性化因子の発現や活性の上昇がみられた。さらに線維芽細胞と角化細胞の共培養において、RDEBFはRDEBKと共培養した場合、NHKと共培養したものと比較して優位にTGF-βシグナル活性が上昇していた。3次元共培養においてもRDEBF-RDEBKにおいてほかの組み合わせと比較して有意に線維化関連タンパクの発現上昇がみられた。このことから、RDEB皮膚においてはMMP、RGD結合インテグリン、ROSがTGF-βシグナル活性の重要な因子であることが示唆された。さらにRDEBKとRDEBFは互いにTGF-βシグナル活性の高発現を介したクロストークにより、RDEB皮膚の線維化を亢進していると考えられた。 また、コラーゲンVII(C7)およびI型コラーゲンでコーティングしたディッシュ上で培養したNHF、RDEBFをLatent-TGFβで刺激したところ、C7コーティングで優位な低下がみられた。この低下は活性型TGF-β刺激ではみられなかった。したがってC7自体にLatent-TGF-β活性化の抑制作用があると考えられた。
|
今後の研究の推進方策 |
VII型コラーゲンによるTGF-βシグナル活性抑制機構を明らかにするため、今後はRecombinant FLAG-type VII collagenを過剰発現させたRDEBF、shRNAでC7をKnock-downしたNHFを用いて、MMP、RGD結合インテグリン、ROSとC7の相互作用を、Proximity ligation assay、免疫沈降、Binding Assayなどで検討しようと考えている。 またRDEB患者では皮膚有棘細胞癌を高率に発症し、高分化でありながら非常に浸潤能が高く高率に転移をきたすことが知られている。培養RDEB-cSCC細胞(RDEB患者に生じた皮膚有棘細胞癌の細胞)を用いて、NHFやRDEBFと共培養して浸潤能の評価をするとともに、各種TGF-βシグナル活性化の阻害剤やsiRNAを用いて、TGF-βシグナル活性の抑制がRDEB-cSCCの浸潤を抑制できるか検討しようと考えている。
|