研究課題
本研究の目的は、自己炎症性角化症 (autoinflammatory keratinization diseases: AiKD) の包括的病態解明を目指し、各々の患者に適したプレシジョンメディシン開発に直結する基礎的データを得ることである。2021年度の目標は、昨年度に引き続き、病因遺伝子が明らかにされていない汎発性膿疱性乾癬と毛孔性紅色粃糠疹などのAiKD症例において、全エクソームシークエンス法で新規病因遺伝子を同定すること、モデルマウスの作製と解析であった。既知の原因遺伝子に変異を認めないAiKD患者のDNAを用いて全エクソームシークエンス解析を行い、未報告のJAK1遺伝子変異を同定した。ヒトのJAK1遺伝子と相同のマウスのJak1遺伝子に、このAiKDの患者が持つ遺伝子変異に相当する部分のJak1遺伝子変異を持つマウスを作成し、Jak1遺伝子変異ノックインマウスと野生型マウスの間で、タンパク質と遺伝子の発現の比較を行った。その結果、Jak1遺伝子変異ノックインマウスの皮膚組織と肝臓組織では、野生型マウスと比較して、JAK1タンパク質とSTATファミリータンパク質のリン酸化が増強されていた。Jak1遺伝子変異ノックインマウスの皮膚組織、肝臓組織、脳組織では、野生型マウスと比較して、チロシンキナーゼ活性の亢進と、その下流のNF-kBの活性化に関連する遺伝子の発現上昇が見られた。さらにAiKD患者のJAK1の機能を調べるために、野生型のJAK1タンパク質と患者に見られる変異型JAK1タンパク質をHEK293細胞に形質導入する実験を行い、変異型JAK1タンパク質を発現させた細胞では、野生型JAK1タンパク質を発現させた細胞と比較して、JAK1タンパク質とSTATファミリータンパク質のリン酸化の増加が確認できた。
2: おおむね順調に進展している
JAK1遺伝子変異によるAiKDを新たに報告することができた。他にも、AiKDの新規病因遺伝子候補をいくつか同定している。新たなモデルマウス作成の準備にも取りかかれているため、おおむね順調に進展している。
研究計画に基づいて引き続き患者を集積し、遺伝学的解析を進めていく。同時に、新たなAiKDモデルマウス・モデル細胞の樹立を推進し、治療薬候補製剤の検討を行う。Jak1遺伝子以外のモデルマウスの解析を進め、AiKDの表現型、病態の解明を行いプレシジョンメディシンに直結するデータを得る。
現在、Jak1遺伝子と別系統のAiKDモデルマウスの作製を進めているが、対象としている遺伝子編集部位が難しいことや、マウスの繁殖困難があり、モデルマウスの樹立に苦戦している。そのため、当初の計画より遅延が生じている。今後、AiKDモデルマウス・モデル細胞を含めた機能解析を推進し、成果の取りまとめを行う。具体的には、マウス皮膚組織のRNA sequenceによる遺伝子発現差解析、ウェスタンブロッティングによるタンパク発現解析、電子顕微鏡解析、成果発表のための学会参加費用、旅費の費用として使用予定である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 図書 (1件)
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