研究課題/領域番号 |
20K08655
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
金城 貴夫 琉球大学, 医学部, 教授 (30284962)
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研究分担者 |
田中 勇悦 琉球大学, 医学部, 産学官連携研究員 (30163588)
上原 佳里奈 琉球大学, 医学部, 助教 (30782594) [辞退]
喜名 振一郎 群馬大学, 大学院医学系研究科, 講師 (40422422)
荒川 博文 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, 分野長 (70313088)
高橋 健造 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (80291425)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | カポジ肉腫 / KSHV / K1遺伝子 / 自然消退 |
研究実績の概要 |
本研究はAIDS関連型カポジ肉腫と古典型カポジ肉腫から検出されたKaposi’s sarcoma associated herpesvirus (KSHV)のK1遺伝子に着目し、その臨床像の違いを解明する事を目的としている。 AIDS関連型カポジ肉腫はAIDSの日和見症候群の一つで病変は皮膚にとどまらず内臓にも発生し進行が速い。一方、古典型カポジ肉腫は皮膚に発生するが内臓病変はみられず、進行が緩やかで自然消退する事さえある。 我々は以前、KSHVのゲノムで変異が多いK1遺伝子についてAIDS関連型と古典型カポジ肉腫で比較したところ、アミノ酸配列に多くの違いがある事を見出した(J Clin Pathol 2004)。これを基にAIDS関連型と古典型カポジ肉腫の臨床像の違いがK1遺伝子の違いによると考え、AIDS関連型K1と古典型K1の形質転換能を比較検討した。AIDS関連型K1は古典型K1より形質転換能がはるかに強く、AIDS関連型K1発現細胞のみヌードマウスに腫瘍を形成した。K1遺伝子はimmunoreceptortyrosin-based activation motif (ITAM)を介して下流のNF-kBやAktを活性化する事が知られている。AIDS関連型K1は古典型K1より高いITAM活性、NF-kBやAkt の活性を示した。AIDS関連型K1と古典型K1の形質転換能の違いはITAM活性の違いと関連する事を初めて明らかにした。研究成果は国際的学術誌(Sci Rep 2019)や各種学会(第101回、第108回、第109回日本病理学会、第76、第78回、第80回日本癌学会)で発表した。 本研究によりカポジ肉腫の臨床像の違いがK1遺伝子の形質転換能の違いによる事が初めて証明された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はAIDS関連型カポジ肉腫と古典型カポジ肉腫から検出されたKSHVのK1遺伝子に着目し、その臨床像の違いを解明する事を目的としている。腫瘍発生に関与するK1は、感染細胞の細胞膜に局在し、細胞内ドメインを用いてAktやNF-kBを活性化し、腫瘍発生に関わっている。K1のシグナル伝達は細胞外ドメインを用いてoligomerを形成し、細胞内ドメインを活性化する。我々は以前AIDS関連型K1と古典型K1の違いは細胞外ドメインにあり、膜貫通ドメインや細胞内ドメインに変異は無い事を報告している(J Clin Pathol 2004)。これを基に古典型K1とAIDS関連型K1のoligomer形成の強さが形質転換能の違いに寄与するという仮説の基に、本研究を実施した。 まずK1の細胞外ドメインを4つの領域(N末端、可変領域1, 中間領域、可変領域2)に分け、AIDS関連型K1のある領域を古典型K1の相同領域に置換したタグ付き組換えK1遺伝子を作製した。この4種の細胞外ドメイン組換えK1発現細胞とAIDS関連型K1または古典型K1発現細胞を用いて形質転換能とoligomer形成能を比較した。 形質転換能は、増殖能、アポトーシスへの抵抗性、足場非依存性増殖を株間で比較した。さらに細胞内シグナル伝達については、ITAMに関わるLynやSykの活性やAkt, NF-kB活性を株間で比較した。これらの検討より、ある組換えK1発現細胞の形質転換能が低く、当該組換え領域がK1の形質転換に重要な部位である事が示唆された。現在研究成果をまとめて国際的学術誌への投稿の準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
今後もDNA damage response geneの誘導能の比較やヌードマウスへの腫瘍形成能を細胞株間で形質転換能について検討を加える。K1のoligomer形成能に関しては、AIDS関連型K1、古典型K1と4種類の組換えK1を用いて、免疫沈降を行い細胞株間で比較する。上記検討により、AIDS関連型K1と古典型K1の形質転換能の違いについて分子生物学的メカニズムを明らかにする。 本研究の究極の目的は、古典型カポジ肉腫の自然消退の解明を通じて、副作用の無い癌の自然消退療法の基盤を確立する事である。 カポジ肉腫がAIDS患者や高齢者に発症する事から、腫瘍発生に宿主の免疫能が関与する事が想定される。K1は細胞膜に局在し、細胞外ドメインの違いが形質転換能の違いに関与しているが、一方で細胞外ドメインは、リンパ球がHLAを介して抗原に結合する際、抗原の認識にも影響を及ぼすと考えられる。本研究はK1の抗原性の違いによる腫瘍免疫に注目し、従来のネオアンチゲンを用いた免疫療法ではなく、癌細胞の自然消退誘導にウイルス抗原を用いた免疫療法に着目した。 今後の研究方針として、形質転換能の検討に加えて、AIDS関連型K1と古典型K1で抗原性や免疫細胞の活性化が異なる部位を特定する。この知見を基に副作用のない癌細胞の自然消退療法の基盤を築く事を目指す。我々のこれまでの検討から、K1の細胞外ドメインによるoligomer形成は強い形質転換を誘導する。KSHVが潜伏感染している患者にはK1遺伝子の組み換えの危険性からoligomer形成を起こすK1細胞外ドメイン領域は使用出来ない。古典型K1の細胞外ドメインであれば万が一潜伏感染したKSHVのK1と組み換えが起きても形質転換能は低く、腫瘍発生の可能性は低いと考えられる。 本研究は免疫療法のターゲットとなる古典型K1の細胞外ドメイン領域を絞り込むため、形質転換に重要な領域と免疫原性が高い領域を特定し、癌の自然消退療法への基盤を築く。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルスの影響で研究を中断せざるを得ない時期があり、予算の執行に遅れが生じた。 これまでK1のアミノ酸配列の違いで形質転換能が異なる事、さらに形質転換能の違いに大きく影響する部位を特定してきた。今後はK1のアミノ酸配列の違いが免疫原性の違いに関与する事を証明し、癌の自然消退療法の基盤を確立する。研究費の大部分は分子生物学的実験や動物実験に伴う消耗品として使用する。研究費の一部は研究成果を国際的学術誌で発表するため、論文原稿の英文校正に使用する予定である。
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