研究課題/領域番号 |
20K08656
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
山口 由衣 横浜市立大学, 医学部, 准教授 (60585264)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 創傷治癒 / マクロファージ / IRF8 / 血管新生 |
研究実績の概要 |
我々はこれまで、全身性強皮症(SSc)患者由来の末梢血単球におけるIRF8の発現低下が、単球・マクロファージ系細胞の分化・形質異常を引き起こし、線維化病態に貢献することを報告した。一方、これらの細胞が創傷治癒やSScの血管障害にもたらす影響は明らかではない。そこで本研究では、まず最初にC57BL/6Jマウスを用いた創傷治癒モデルを作成し、IRF8が創傷治癒に影響する可能性を検討した。創傷治癒モデルにおける皮膚では、day3-7の早期から中期にかけてIRF8発現がタンパクレベルで上昇していることから、IRF8が創傷治癒に何らかの働きをすることが想定された。そこで、SScでは、単球でIRF8発現が低下していたため、骨髄球特異的にIRF8をノックアウトしたコンディショナルノックアウトマウス(LysM-cre IRF8 flox)を用いて創傷治癒過程を比較した。その結果、WTマウスと比較して、LysM-cre IRF8 floxマウスでは、有意にday3-7において創傷治癒遅延を認めた。day14には両マウスともほぼ肉眼的上皮化を認めたが、組織学的には、WTマウスは瘢痕組織に置き換わっているにも関わらず、LysM-cre IRF8 floxマウスでは不完全な肉芽組織が残存していた。また、LysM-cre IRF8 floxマウスでは、WTマウスに比較して、皮膚における血管新生因子や細胞接着因子の発現が有意に上昇しており、異常な血管新生が引き起こされている可能性が示唆された。現在、in vitroの実験によって、IRF8低下単球が異常な血管新生を引き起こす可能性について検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、骨髄球特異的にIRF8をノックアウトしたコンディショナルノックアウトマウスを用いた創傷治癒モデルにおいて、有意な創傷治癒遅延が起こることを示すことができた。また、そのメカニズムの一つとして、創傷治癒過程の早期から中期にかけて、異常な血管新生が引き起こされている可能性が示唆された。IRF8発現低下単球が、どのようなメカニズムで血管新生の過程に関与するかに関しては現在検討中である。本来、IRF8発現低下単球を用いたin vitro実験によってこの点に関してさらに検討する予定であったが、実験系の確立に少々の遅れがある。
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今後の研究の推進方策 |
現在、マトリゲルによる血管内皮細胞の管腔構造を評価する実験系を確立したため、IRF8発現低下単球がこの管腔構造形成においてどのような影響を与えるかを検討予定である。 また、骨髄球特異的にIRF8をノックアウトしたコンディショナルノックアウトマウスを用いたブレオマイシンによる皮膚線維化モデルでは、線維化が増強することをこれまで示しているが、このモデルにおける血管の評価を行い、SSc由来単球におけるIRF8の発現異常が、SScの線維化だけではなく、血管障害にも関与する可能性を検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に施行予定であったマトリゲルを用いた血管新生評価の実験系において、COVID-19の影響によりマトリゲルの搬入が極端に遅れたことや、マトリゲルを用いた実験系の確立に時間を要し、当初の計画から若干の遅れを認めている影響と考えている。この実験系が確立してきたため、次年度は遅れを取り戻せると考えている。
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