研究課題/領域番号 |
20K08657
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研究機関 | 岐阜薬科大学 |
研究代表者 |
井上 紳太郎 岐阜薬科大学, 薬学部, 特任教授 (00793853)
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研究分担者 |
水谷 有紀子 岐阜薬科大学, 薬学部, 特任准教授 (30396296)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ロドデンドロール / 白斑 / GPNMB / NRF2 / 酸化ストレス / 細胞障害性 / 表皮細胞 |
研究実績の概要 |
ロドデンドロール(RD)による色素脱失症発症にはRD由来代謝物による酸化ストレス(OS)が寄与している。一方、尋常性白斑(VL)の発症と病態維持にもH2O2などに対するOS感受性が関わっており、その実態解明が化学白斑やVLの発症予防や治療に重要である。色素細胞(MC)のOS抵抗性にはNRF2系が寄与しているが、メラニン合成、ストレス抵抗性、および細胞接着に関わる膜タンパク質(GPNMB)が表皮基底層で発現するのに対し、VL由来基底層では消失していることを最近見出した(Biswas et al., Sci Rep 10: 4930 (2020))。本研究では、VL発症に関連するIFN-γやIL17AがGPNMB発現を抑制したことから、OS抵抗性へのGPNMBの関与やNRF2抗酸化システムとの関係性をMCやメラノーマ細胞(MM)、および表皮細胞(KC)で明らかにする。 NRF2-ノックアウト(KO) ヒトMM株を作出し検討した結果、GPNMB-siRNAによるGPNMBのノックダウンによりRDやH2O2の細胞障害性が増し、細胞外ドメインからなる組換え型(r)GPNMB添加により細胞障害性が軽減された。GPNMB受容体候補であるNa+/K+ATPase αサブユニットについては、ウアバインでその効果を阻害できなかったことから、他の受容体の可能性を検討する必要がある。 VL発症および病態維持におけるヒトKCでのGPNMBの寄与を調べる目的で、まず、MMで認められたOS抵抗能について調べた。ヒトKCでは、NRF2をノックダウンしてもH2O2感受性は変化しなかったが、GPNMBノックダウンによりH2O2感受性が増した。さらに、rGPNMBはKCのH2O2による細胞障害を軽減させた。以上の結果は、MMのみならずKCにおいてもGPNMBがOS抵抗性に寄与することを示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
NRF2-ノックアウト(KO)メラノーマ細胞(MM)を用いた検討で明らかになったGPNMBの抗酸化ストレス能に関しては、メラニン合成能のないヒト表皮細胞(KC)でも確認された。さらに、KCの増殖期では抗酸化システムとして重要なNRF2が機能しておらず、むしろGPNMBが抗酸化システムとして機能していることが示された。 rGPNMBが作用し得る受容体に関しては、NRF2-KO MMを用い、H2O2に対する感受性を指標にNa+/K+ATPase αサブユニットの可能性を検討したが、rGPNMBの効果がウアバインで阻害されず、受容体としては機能していないことが分かった。 NRF2-KO MM細胞での白斑リスク物質の評価は困難であることが分かったので、ゲノム編集のできる可能性がある不死化された色素細胞(MC)を用いて検討を開始した。hTERT導入不死化MCについてロドデンドロール(RD)の細胞傷害性を評価し、MCで見られたようなチロシナーゼ(TYR)依存性やNRF2活性化による細胞障害性の低下などを調べ、高感度で安定的にリスク物質の評価ができるかどうか検討した。結果、RDおよびH2O2に対する感受性はNRF2、GPNMBのノックダウンでは変化せず、また細胞障害性のTYR依存性も認められなかった。正常MCとは全く違う挙動を示したため、不死化MCを用いた「酸化ストレス抵抗性分子の遺伝子改変制御により白斑発症リスク物質を安定評価できる細胞株の作出と高汎用性細胞評価系の確立」に関しては断念した。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の検討の結果、GPNMBがNRF2-ノックアウト(KO)およびNRF2(+) メラノーマ細胞(MM)のH2O2による細胞障害性を回避する抗酸化ストレスタンパク質であること、増殖フェーズのヒト表皮細胞(KC)は、NRF2よりもむしろGPNMBを抗酸化応答分子として用いていることが明らかになった。 GPNMBは、正常皮膚および尋常性白斑(VL)の非病変部の上皮細胞層では発現してるが、病変部では消失していること、VL発症に関連するサイトカインであるIFN-γやIL17AがGPNMB発現を抑制したことから、VLの病因・病態維持に関わる重要な因子である可能性がある。そこで、今年度はヒトKCにおけるGPNMBの役割、および白斑形成あるいは病態維持との関わりについて重点的に検討する。 具体的には、GPNMBタンパク質をノックダウンし、部分的に細胞障害性を示すH2O2濃度処理ありなしの条件下で変動する遺伝子について網羅的に解析することで、KCにおけるGPNMB下流遺伝子の検索をおこなう。得られた候補遺伝子については、実際にKCでの発現や機能を順次解析し、色素細胞(MC)との相互作用、メラニン代謝に及ぼす影響などを詳細に調べることで、VLにおけるGPNMBの関与の可能性を探る。 「酸化ストレス抵抗性分子の遺伝子改変制御により白斑発症リスク物質を安定評価できる細胞株の作出と高汎用性細胞評価系の確立」に関しては、ヒトMMおよび不死化MCでの検討により、正常MCに見られるH2O2やロドデンドロールに対する細胞応答と全く異なることが明らかになったので、今後の検討は断念することとした。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度はコロナ自粛の影響があり、初動が遅れたため、次年度分として繰り越した。 実験としてはおおむね順調に進展しており、今年度はヒト表皮細胞におけるGPNMB下流遺伝子の検索を行う。用途としては、高額な初代培養ケラチノサイトの購入および維持培養にかかる諸経費のほか、遺伝子の網羅解析に必要な分子生物学的試薬等に用いる。
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