研究実績の概要 |
初年度には、酸化ストレス(OXS, oxidative stress)に対する抵抗性に関わるNRF2遺伝子を欠損させたメラノーマ細胞の過酸化水素による細胞障害性を調べた。結果、新たに膜貫通糖タンパク質(GPNMB ,Glycoprotein nonmetastatic melanoma protein B)がOXSによる細胞障害を回避する抗OXSタンパク質である可能性を示した。一方、GPNMBの細胞外部分はヒト正常色素細胞のOXS障害も保護した (Int J Mol Sci. 22:10843, 2021) 。加えて、増殖期のヒト表皮細胞(KC)の抗OXS応答では、NRF2よりもむしろGPNMBが抗OXS応答分子として働くことを示した。我々は、表皮の基底部に高発現しているGPNMBが白斑病変部では消失していることを報告している(Sci Rep 10:4930, 2020)。そこで、ヒトKCのGPNMB発現低下が白斑発症や病態維持にどう関わっているのか、あるいはGPNMBがKCでどのような生理的役割を担っているのかについて調べるため、抗OXSシステムに関わる遺伝子やタンパク質発現の動態を詳細に調べた。KCのGPNMBをノックダウンするとOXS感受性が増大し、タンパク質合成・増殖・生存を含む基本的な細胞プロセスに関与するシグナル伝達経路PI3K/AKTの活性化が抑制される一方で、細胞の生死に関わるp38、ERKのリン酸化を促進した。また、AKT活性化抑制には、PI3K経路以外の複数の経路が関与していることを示した。この他、KCのGPNMBの発現低下が、白斑病因に関わる基底膜からの色素細胞の離脱に関与する可能性を示した。加えて、基底層KC由来GPNMBの生理的役割を明らかにするため、KCの増殖・分化・発癌に関わる因子の発現変動も調べた。
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