研究課題
本研究計画では、毛の発生・制御を詳細に解析可能とする細胞ツール(未分化幹細胞)を樹立し、それを用いて毛の発生から移植毛までを精査・解析することを目標とする。初年度(令和2年度)は、まず、発毛プロセスを可視化するために、ケラチン遺伝子プロモーターとその下流に赤色蛍光タンパク質(DsRed)を組み込んだplasmid(pK-DsRed)の構築を行った。ケラチン遺伝子として表皮細胞に高発現するKeratinファミリー遺伝子を解析・選択し、その遺伝子プロモーターのサブクローニングを行った。種々のプロモーター上流域を含む遺伝子の単離を行い、下流にDsRed遺伝子を組み込んだplasmidの構築を現在実施している。樹立後、毛乳頭細胞特異的にGFPを発現可能なTgマウスより単離した細胞(既に細胞株を樹立済み)に遺伝子導入することでdouble Tg reporter細胞株の樹立を行う。また、上記細胞ツールを用いることで試験管内での発毛を試みるための予備実験として、未分化幹細胞である胚性幹細胞(ES細胞)を用いて毛包細胞への分化誘導の基礎的検討を行った。ES細胞より既報を参考に(Leeら、Nature, 2020)分化誘導を試み、出現率に差はあるものの、毛包構成細胞を組織学的に認めた。今後は分化誘導条件を更に改良することで、毛包細胞への効率的分化誘導法をスクリーニングし、上記細胞株を用いることで毛の発生・制御を行うことが可能なシステムを構築する。
2: おおむね順調に進展している
研究計画に基づき、期待した実験成果が得られており、学会発表等での成果報告を行っているため。
次年度(令和3年度)では、発毛解析細胞ツールの開発を継続し、更に、in vitro細胞培養系での発毛誘導条件を検討する。具体的には、令和2年度に得られた成績・材料をもとに、double Tg reporter細胞株を樹立し、それを用いて細胞培養により毛包を誘導する。誘導は既法と独自開発を行っている3次元培養法を適用する。培養開始から蛍光顕微鏡により上皮系細胞(赤色)や毛乳頭細胞(緑色)に分化した細胞を連続的に追跡し、発毛発生をリアルタイムでモニターすることで、分化状況や細胞動態を解析する。固定後、凍結切片を用いた組織学的解析(免疫染色など)により各構成細胞を解析する。また、誘導した毛包内での遺伝子発現変化を調べるため、各種細胞をフローサイトメーター(FACS)あるいはレーザーマイクロダイセクション(LMD)により分取し、real time PCRおよびDNA array等により解析することで、発毛における細胞内現象を解析し、発毛制御の基礎的データを構築してゆく予定である。
(理由)本研究計画の2年目(令和3年度)において、発毛に関わる種々の遺伝子変化を網羅的に解析する目的で、DNA array解析や受託研究費等の発生が予想された。本年度(令和3年度)は、発毛プロセス可視化するための遺伝子工学的手法による実験が主であったため、消耗品(各種緩衝液やプラスチックチューブ等)の購入に研究費を使用した。その際、必要最小限の量を計画的に購入することで、繰越金を捻出し、来年度に備えた。(使用計画)次年度は繰越金を合算して、DNA array等を用いた更なる解析を行いつつ、初年度に購入した消耗品を継続して使用することや、実験に必要な物品を計画的に購入することで、研究を遂行する。
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Journal of Nara Medical Association
巻: 71 ページ: 59-63
Clinical Parasitology
巻: 31 ページ: 28-33