本研究では、表皮特異的Hes1コンディショナルノックアウト(Hes1cKOepi)マウスを作成し、成体マウス背部皮膚の表現系を観察したが、目立った表現系は観察されなかった。そこで創傷治癒過程の観察を行ったところ、Hes1cKOepiマウスではコントロールマウスに比べて創傷部の炎症が高じることが観察された。これより、Hes1が皮膚免疫に関与する可能性が示唆された。そこで皮膚免疫疾患である乾癬に着目し、イミキモドによる乾癬の誘発を行った。すると、Hes1cKOepiマウスでは顆粒層の減少と有棘層の肥厚を伴った表皮の肥厚、不全角化といった乾癬の特徴的病態の悪化が観察された。また、真皮マクロファージや表皮ランゲルハンス細胞の増加など、免疫細胞の発現量に変化が確認された。さらに、表皮に発現する遺伝子の網羅的解析により、Hes1cKOepiマウスでは免疫に関与する遺伝子群の発現に差異があることが明らかとなった。これら遺伝子群の発現変化は、乾癬誘発時におけるマウス表皮だけでなく、マウスから樹立した初代ケラチノサイトにイミキモド処理をすることでも確認されたことから、乾癬誘発による二次的な効果であることより、むしろイミキモドに刺激されたケラチノサイトからの一次的なシグナルであることが示された。 以上の結果は、Hes1が表皮における免疫調節遺伝子発現に関与し、免疫細胞の遊走や活性化を抑制することで過剰な皮膚免疫を抑え、正常な皮膚の恒常性の維持に寄与している可能性を示している。
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