研究課題/領域番号 |
20K08663
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
中田 登 国立感染症研究所, ハンセン病研究センター 感染制御部, 室長 (70237296)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 温度感受性 / Mycobacterium |
研究実績の概要 |
ハンセン病の原因菌であるらい菌は、人工培地での培養が未だなお達成されていないが、温度感受性増殖を示し、25℃-33℃で37℃より良好な代謝活性を示すことが示されており、このことが皮膚などの低体温部親和性増殖の理由であると考えられている。37℃より低い温度で良く増殖する性質は、近縁の数種の抗酸菌に共通しており、これらの菌は共通して皮膚に病変を作る。そこでこれらの菌の温度感受性増殖の原因因子を探るため、35℃以上で増殖しないMycobacterium marinumの臨床分離株を用い、徐々に培養温度を上昇させることにより37℃で増殖する変異株の分離を試みた結果、37℃では増殖しないが35℃で増殖する変異株を2株分離した。親株である臨床分離株のゲノム全塩基配列を決定した結果、6,624,057塩基対からなっており、変異株との差異を解析した結果、検出された塩基置換の多くは、PE-PGRSファミリーに属するタンパクや、機能不明のタンパクをコードする遺伝子上にあった。一方、らい菌のDNAジャイレースは、37℃より30℃で高い活性を示し、人工培養可能菌での発現実験から、その性質はこの酵素を構成するサブユ2つのサブユニットA、Bのうち、主にAに原因があることが示唆された。一方、酵素の再構成実験により、同様に皮膚に病変を引き起こすMycobacterium haemophilumのDNAジャイレースも33℃で高い活性を示すことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
皮膚に病変を作る病原性抗酸菌の温度感受性増殖の分子機構の解明のために、M. marinum臨床分離株から変異株を分離する試みについては、親株が増殖する上限温度より2℃高い温度の35℃で増殖する株の分離に複数株成功している。親株については、ゲノムシーケンシングにより、全ゲノムのDNA配列を決定した。 親株と変異株との比較では、30から50カ所程度の変異が検出された。検出された変異の多くは、PE-PGRSファミリーに属するタンパクや、機能不明のタンパクをコードする遺伝子上にあった。検出された変異個所が予想より多く、また機能が特定できる遺伝子上にないため解析が困難であった。DNAジャイレースについては、M. marinum、M. haemophilumのgyrB-gyrAは、組換え菌においてMycobacterium smegmatisに温度感受性の性質を与えなかったが、らい菌gyrB-gyrAはM. smegmatisに温度感受性の性質を与え、これは主にgyrAの働きによることが示唆された。一方、大腸菌で発現させたGyrAとGyrBを用いてDNAジャイレースを再構成させ、酵素活性を測定したところ、らい菌のみならずM. haemophilumのDNAジャイレースも33℃で高い活性を示した。現在、皮膚に病変を作るM. marinumなどその他の抗酸菌を含め、酵素活性における温度の影響を詳細に比較検討している。
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今後の研究の推進方策 |
らい菌、M. haemophilumのDNAジャイレースは、30-33℃で高い活性を示すことから、この性質が皮膚に病変を作る抗酸菌に共通の性質として存在するかどうかを、M. marinumや、Mycobacterium ulcerance等を含めて、大腸菌で発現させた酵素をの再構成実験からの活性測定を行って検討する。近年新たにハンセン病の原因菌の一つとして同定されたMycobacteirum lepromatosisは、その性質がまだ詳細に調べられていないが、同様に皮膚に病変を作ることから、その増殖について温度感受性の性質を示すことが推測される。この菌については、ゲノム塩基配列情報が利用可能となっているので、比較検討することにより、DNAジャイレースを含めて増殖可能温度に影響を与える因子の推定を行う。らい菌DNAジャイレースの温度感受性については、この性質を持たない他の抗酸菌のDNAジャイレースとの間で組換えを行い、菌の増殖に温度が与える影響を調べ、さらに酵素活性と温度の関係を詳細に調べることうことにより、この性質を決定づけるタンパク質の1次構造を解析する。これを元に、コンピュータシミュレーションによって立体構造の予測を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
ゲノムDNAの次世代シーケンサーによる解析にかかった費用が予定より少なかったことなどが理由である。 次年度は大腸菌での発現実験、タンパク質精製、酵素活性の測定に必要な試薬などに使用する予定である。
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