研究課題/領域番号 |
20K08679
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
種瀬 啓士 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (70464815)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 皮膚悪性腫瘍 / 悪性黒色腫 / Hedgehogシグナル伝達経路 / GLI |
研究実績の概要 |
本研究では、悪性黒色腫におけるHedgehogシグナル伝達経路(以下、HHシグナル)の活性化が及ぼす臨床的影響を検討するため、先ず被検者の病理組織検体において、HHシグナルの活性化を可視化することより検討を開始した。HHシグナルは転写因子glioma-associated oncogene(GLI)が核内に移行することで転写が促進されるが、そのうちのGLI1が最も転写促進的に働くことが分かっている。我々は、ホルマリン固定パラフィン包埋された組織標本において核内に移行したGLI1を適切に反映できる免疫染色系を確立し、現時点で100例の悪性黒色腫患者の原発巣及び転移巣病変の標本に対して免疫染色を施行した。また、それらの患者における臨床情報を収集し、現在患者の予後とGLI1の染色態度の相関性を検討している最中である。免疫染色の結果より、約100例の標本中15標本において腫瘍細胞と腫瘍細胞周囲の間葉系組織におけるGLI1の核内移行が認められた。これは、ヒトの悪性黒色腫組織においてHHシグナルが腫瘍細胞のみならず、周囲組織においても活性化していることを初めて可視化したものである。また、種々の悪性黒色腫の細胞株に対しても同様の手法で免疫細胞化学染色を施行し、GLI1の核内移行が認められる細胞株を探索し、現時点で複数のHHシグナルの活性化が起きていると予想される細胞を同定している。なお、コントロールとして正常メラノサイトの染色を行っているが、そちらではGLI1の染色は認められていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今般の新型コロナウイルス禍に伴って目まぐるしく変化した医療環境および社会環境に対応する必要性に迫られたため、報告年度の前半は殆ど研究に取り組むことができなかったのが実情である。しかし、昨年11月頃より今の社会状況にある程度順応した医療体制および研究体制が整って来たので、当初の計画に則した検討を開始している。コロナ禍により諸々の研究環境に一定の制限は出ているものの、本研究計画において実施を予定している実験の実施については、現時点では支障はないと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
先ずは、患者の臨床情報と蛋白質の発現の相関性を明らかにし、有意な結果が得られた場合はそれに基づいたin vitroの実験計画を立案・遂行する。同時に、in vitro試験で用いる腫瘍細胞株を発現遺伝子および発現蛋白の観点から選定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今般の新型コロナウイルス禍に伴い、実験を開始できたのが当初の計画よりも7カ月ほど遅れた。現時点では一部の症例での免疫染色、各種実験の事前の条件検討を行っている状況であるが、それらについてはこれまでに所有していた各種試薬で行える範囲のものであったため、見た目上使用した交付金はあまり減少していない。しかし、今後本実験が本格化し、相応の試薬も必要となることが予想されるため。従来通りの助成金のもとで引き続き研究を進めていきたいと思っている。次年度中には本年度に行う筈であった悪性黒色腫細胞株におけるin vitroでのHedgehogシグナル伝達経路の活性化とその生物学的な意義を検討する実験に着する予定であり、各種の阻害薬等を用いた検討を行うために必要な試薬購入費、それらの結果を解析するための試薬購入等が発生する予定である。
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