研究課題/領域番号 |
20K08684
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
皆川 智子 弘前大学, 医学部附属病院, 助教 (20436033)
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研究分担者 |
澤村 大輔 弘前大学, 医学研究科, 教授 (60196334)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 水疱性類天疱瘡 / Bullous pemphigoid / BP180 ELISA / NC16aアフィニティーカラム / NC16aドメイン |
研究実績の概要 |
水疱性類天疱瘡(Bullous pemphigoid; BP)は全身の皮膚で表皮下水疱が多発する,最も頻度が高い自己免疫性水疱症であり,高齢者に好発する.BP患者の血清中には皮膚の基底膜を認識する抗基底膜抗体が存在する.その自己抗体が認識する自己抗原として,BP230とBP180の類天疱瘡抗原が同定されたが,その後の研究から,病態形成に関与している主な自己抗原は,BP180と考えられている. BPではほとんどの患者が,1497アミノ酸からなるBP180のなかの非常に狭い領域の,76アミノ酸からなるnon-collagenous 16a domain (NC16aドメイン)を認識していることが解明された.実際に抗BP180抗体測定に関しては,細胞膜に近い細胞外に位置するNC16a を大腸菌で発現させた蛋白を使用している.NC16aドメインはわずか76個のアミノ酸で構成され,BP患者血中抗体の主要エピトープであるため,この部位の組み換え蛋白を使用している.通常,自己免疫性疾患の多くで,自己抗体は自己抗原の広い領域を認識するため,患者間あるいは患者内でも,異なった抗体が産生されると考えられてきた.そこで,患者内で,どのくらいの数のNC16aを認識する抗体が産生されているか,あるいは患者間で同じ部位を認識する抗体なら可変領域の非常に類似したものになっているのかを解明するため,以下の実験を計画し,当科通院中のBP患者から検体を提供頂き,マウスの実験に取り組んでいる. 1)BP患者のB細胞をEBウイルスで株化後,自己抗体産生細胞を選択,産生抗体の可変領域アミノ酸配列を解析する. 2) 患者リンパ球のB細胞受容体遺伝子の可変領域配列を次世代シークエンサーにて網羅的に取得し,B細胞クローンの種類や頻度を検討するレパトア解析を行う. 3)自己抗体可変領域のアミノ酸配列を質量分析にて直接解析する
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで我々のグループはBPの研究をし,研究成果を報告してきた.ペプチドの質量分析からアミノ酸の配列を予測できるようになっており,BP180のNC16aアフィニティーカラムと抗体の可変領域を選択的に集める方法(nSMOL法)を使用することとした.すなわち,患者の血清からBP180 NC16aのカラムを用いて,抗BP180 NC16a抗体を回収し,抗体をFc末端でビーズに固定し,Fab領域(可変領域を含む)を選択的に酵素消化して得られたFab由来ペプチド断片をそのままLC/MS/MSにて質量分析を行い,可変領域のアミノ酸配列やその頻度を決定することとした.しかしながら,BP患者さんが新型コロナに感染したり,濃厚接触者に該当したため予定通りに受診できないこともあり,重症度に関わらず,当科を受診され,同意いただけた場合には,検体を頂き,自己抗体可変領域のアミノ酸配列を質量分析できるよう取り組んでいる.自己抗体の病変誘発実験による病原性の確認のためマウスを飼育し,準備を進めている. 尚,本研究に必要な研究機器については,シークエンサー,蛍光顕微鏡,蛍光・発光プレートリーダー,その他一般的な機器についてもすべて弘前大学皮膚科専用のものがある.また,リアルタイムPCR,共焦点レーザー顕微鏡,フローサイトメトリーも共同実験施設に数台そろって,これまで使用してきている.さらに,健康未来イノベーションセンターには,次世代シークエンサーや質量分析機器も設置され使用可能であるためおおむね順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
NC16aドメインをカバーするように,短いペプチドを作成し,抗体がNC16a領域のさらに細かい部位を特定しようする試みはあるが,患者の自己抗体は,種々のクローンが混じている可能性があり,実際には結果の解釈は難しい.現時点では, 1)ではBP患者のB細胞をEBウイルスで株化することが順調にいっておらず,学内の研究者から意見を募り,引き続き取り組んでいきたい. 2)では患者リンパ球のB細胞受容体遺伝子の可変領域配列を次世代シークエンサーにて網羅的に行う予定だが,できるだけBP活動期の患者からB細胞を分離し,mRNAからcDNAを合成後,全BCR遺伝子を増幅する予定である。 3)自己抗体の病変誘発実験による病原性の確認を行うため,遺伝子改変技術によって,マウスBP180がヒトBP180に置き換わった,ヒトBP180マウスに,可変領域の検討で得られたクローンから精製した抗体を投与して,病原性があるのかを確認する. 4)患者の血清からBP180 NC16aのカラムを用いて,抗BP180 NC16a抗体を回収し,抗体をFc末端でビーズに固定し,Fab由来ペプチド断片を質量分析する.
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