研究課題
円形脱毛症では、CD8T細胞(ストレス受容体NKG2D+)の病的役割が注目されている。申請者らはこれまで、ヒトNKG2D+γδT細胞が、a)病変部毛包へ浸潤し、b)ex vivoで誘導した毛包ストレスリガンドを認識して退行期毛包を誘導することを明らかにした。本研究では、in vivoでの毛包ストレス誘導因子として、AGEs(終末糖化産物)に着目している。近年、円形脱毛症と糖尿病の関連が指摘されている。高血糖はAGEsを蓄積し、組織ストレスや炎症反応を誘導する。申請者らは、蓄積したAGEsがT細胞を介した炎症を誘導し、脱毛の全身への拡大に関与する可能性について検討した。糖尿病のない円形脱毛症の患者(17人)と健常者(5人)において、前期糖化産物であるHbA1c値(NGSP、基準値4.9-6.0%)を解析した。患者群では健常者と比較して、HbA1cの有意な上昇が認められた(5.45±0.07 vs. 5.14±0.15, p = 0.020)。さらに、頭部外の脱毛病変の有無を重症度の指標とした解析では、頭部外病変の合併群では非合併群と比較して、HbA1cの有意な上昇が認められた(5.71±0.19 vs. 5.35±0.20, p = 0.001)。次に、AGEsが円形脱毛症のバイオマーカーであるかどうかを探るため、治療前の血清AGEsの一つであるmethylglyoxal(MGの)とCMLについてELISA法を用いて解析した。患者群では、健常者に比べて、血清MG値に上昇傾向がみられた(p = 0.021)。すなわち円形脱毛症において、糖化産物の蓄積は、円形脱毛症の病態や重症度に関与している可能性が示唆され、AGEsによるT細胞の特異的な活性化制御機構の解明は、円形脱毛症の病態メカニズムの構築と新たな治療ターゲットにつながる重要な成果であると考えられる。
3: やや遅れている
これまで、前期糖化産物の蓄積が円形脱毛症でみられ、重症度とも相関していることが判明し、今年度、円形脱毛症の血清AGEsの一つであるMGについて、健常者と比較して上昇傾向が見られるという新たな事実を発見することができた。この成果は、今後、AGEsによる末梢血T細胞を特異的に活性化する機序とその調節機構の解明が、将来的な円形脱毛症の治療法の確立につながる事を示す重要なものである。AGEsにはMG以外にも複数の代謝産物やその受容体が含まれ、それらについての検討を進める。また、組織学的な検討について、免疫染色の条件設定を行なっている。
本研究で得られた知見を基に、円形脱毛症の病態におけるAGEsの役割について、各代謝産物について解析し、円形脱毛症の治療のターゲットとして応用するための研究をさらに推進する。円形脱毛症の毛包やT細胞におけるAGEsの蓄積や分布の特異性について、病変部毛包や浸潤T細胞におけるAGEsの蓄積の有無や分布について、抗AGE抗体を用いた免疫組織化学的あるいは免疫蛍光染色を行い、非病変部や健常者の結果と比較する予定である。また、AGEs受容体であるRAGE(receptor for AGEs)の発現や分布についても同様に、抗RAGE抗体を用いた組織学的検討を行う。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件)
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