細胞競合とは、状態の異なる2種類の近接する細胞が環境への適応度で競合する現象であり、過去に主にショウジョウバエやマウスにおいて観察されてきた。これまでに申請者の所属研究室では、汗孔角化症の研究において、原因遺伝子に変異を持つケラチノサイトが正常ケラチノサイトと混ざり合う領域でのみ、過角化や炎症細胞浸潤などの病変が発生することを見出した。これより、ヒトの表皮において細胞競合現象が存在する可能性、および細胞競合現象が病変を誘発する原因となりうる可能性が強く示唆されている。 本研究は、変異ケラチノサイトが表皮内でクローン増殖することで発症する列序性表皮母斑・脂漏性角化症などの皮膚モザイク疾患群に着眼し、「変異遺伝子ごとの細胞競合現象の違いが、皮疹の形状や大きさの違いを生み出している」という仮説をたて、検討を行うものである。これまでの事業期間において、申請者は主に、変異ケラチノサイトと正常ケラチノサイトを用いたin vitro皮疹モデルの構築に携わり、実験手法を確立させた。これと並行して、培養細胞株を元にした疾患モデル細胞の準備も進めていたが、申請者の科研費指定機関ではない機関への転職による応募資格喪失により、本研究は今年度にて補助事業廃止となった。研究室においては今後も、他メンバーにより引き続き、本モデルを用いて正常・変異ケラチノサイト間で発生する細胞競合現象の分子メカニズムの検討が進められていく予定である。
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