研究課題
がんは1つの細胞に由来するが、ゲノム異常の蓄積、微小環境の影響により不均一性を生じる。腫瘍内不均一性は、がんが治療抵抗性を獲得し、再発・転移する分子基盤であると考えられるが、微小環境の影響を解析する方法は確立していない。これまで培養がん細胞は、がん細胞のシグナル伝達、動態、薬剤感受性などの研究に大きな役割を果たしてきたが、培養がん細胞を用いた研究に決定的に欠けているのは、がんの周囲を取り巻く免疫細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞などから構成される、がん微小環境の研究ができないことである。さらにがん微小環境は、このように複数の細胞の相互作用で構築されるので、従来のがん組織を集団(バルク)として捉える研究手法ではなく、個別の細胞ごとに解析する必要がある。すなわち、シングルセル解析の手法を用いて、SCCの微小環境を解析する必要がる。我々はマウスにできた有棘細胞がん(SCC)から樹立した細胞株を、遺伝的バックグランドが同じマウスに注射することにより (allograft モデル)、SCCを再現する系を独自に確立した。本研究はこの系を用いて、2次元の培養SCC細胞から3次元のSCC組織ができる時に、どのような遺伝子の発現の違いがみられるのかをシングルセル・レベルで比較することにより、がん微小環境によりSCC内に不均一性が生じるメカニズムを明らかにすることを目的とする。用いる培養SCC細胞が単クローンに由来していなければ、マウスに注射した時にできるSCCは、多クローン性のために不均一性を獲得する可能性がある。そこでこの可能性を否定するために、本年度は培養SCC細胞を単クローン化し、さらにGFP遺伝子を導入して、単クローンに由来する細胞を可視化することを試みた。
4: 遅れている
新型コロナウイルス感染症のため、半年以上研究室への出入りが制限されていたため、研究計画に遅れが出ている。また、実験に用いる予定だった培養細胞がマイコプラズマに感染していたため、その除去にも時間がかかった。
新型コロナウイルス感染症に対する対策をしっかりとることにより、研究室も使用できるようになった。今年度は、昨年度の遅れを取り戻すべく、当初の研究計画の(I)培養SCC細胞にはどの程度不均一性があるのか、(II)2次元から3次元に構築される過程でどのような遺伝子の発現変化が起こるのか、という課題に取り組む。具体的には以下の研究を、当初の計画通り行う。①単クローン由来の培養細胞を用いた予備実験の検証、②シングルセルを単離する条件の検討、③ライブラリーの作製、④シークエンスとデータ解析。
コロナ禍の影響で、半年ほど研究できなかった結果、予定していた試薬類の購入費を次年度に持ち越すことになった。今年度はライブラリーの作製、RNA-SEQを予定しており、持ち越し分をその費用に充てる予定である。
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