セラミドの炭素数(鎖長)により形成されるラメラ周期は異なることが知られ、疎水性の増大により、炭素数が多い脂肪酸を有するセラミドはバリア機能が大きいといえる。ヒトの短周期ラメラは約6 nmであるが、脂質モデルでは、用いる脂肪酸の鎖長が短いため多少短い周期が観察される。また、リン脂質のリポソーム膜中ではコレステロールの配合により、膜が安定するが、セラミドの脂質モデルでラメラ構造を柔軟に保つ機能を付与すると考えられる。一方、遊離脂肪酸は、その添加がないと直方晶が形成されないことが示されてきた。六方晶と比べて、より充填性が高い直方晶のほうが、バリア機能が優れるとも言われているため、直方晶形成に対する脂肪酸の影響を考察してみた。セラミド、コレステロール、遊離脂肪酸の等モルの脂質モデルにおいては、これまで、C16のパルミチン酸を使用してきたが、鎖長を2増炭したステアリン酸を用いて比較実験を試みた。それぞれ単独の熱曲線からは、ステアリン酸の融点のほうがおよそ7℃高かった。一方、脂質モデルの熱挙動の50℃から60℃付近の吸熱ピークの低温シフトに関しては、パルミチン酸由来は約11℃、ステアリン酸は約9℃であった。低温側での吸熱ピークは、ラメラ構造から脂肪酸が脱離する現象であることが示されたことから、すなわち、直方晶の液晶化を意味する考えられる。つまりステアリン酸はパルミチン酸より僅かに安定性に優れた液晶構造形成に寄与する可能性が示唆された。より疎水性の大きい遊離脂肪酸のほうが、皮膚のバリア機能への寄与が大きいことを意味している。角層中の遊離脂肪酸やセラミドには多くの種類があるため、ヒト角層モデルを3成分系で完全再現するのは難しいが、3成分モデルで脂肪酸鎖長の変化が及ぼす影響について考察することができた。以上の結果から、バリア機能改善のために製剤開発における有用な基盤情報が得られた。
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