研究課題
移植片対宿主病(graft-versus-host disease:GVHD)は同種造血細胞移植後に発症する重篤な合併症の一つであり、治療薬である副腎皮質ステロイド剤に対して約半数の症例は抵抗性を示す。この病態をステロイド不応性GVHD(steroid refractory/resistant GVHD:SR-GVHD)と呼ぶ。同種造血細胞移植の予後改善にはSR-GVHDの病態解明が不可欠であり、病態に即した予防・治療法の開発が急務である。本研究の初年度には、ヒト臨床に近いマウス骨髄移植モデルの一つである主要組織適合抗原(Major histocompatibility: MHC)一致マイナー抗原不一致モデルのC3H.sw→B6系にて、腸内細菌由来メタボライトを解析し、Choline、Trimethylamine N-oxideなどのコリン代謝経路や、Kynurenine、Picolinic acidなどのトリプトファン代謝経路に関連するメタボライトが同種移植で増加ないし減少していることを確認した。本年度はタウリン代謝に関係するIsethionic acidの同種移植での低下を確認した。タウリン代謝は炎症反応に重要な役割を示すインフラマゾームの一種、NOD-like receptor family pyrin domain containing 6 (NLRP6)の制御に深く関連していることから、NLRP6のGVHDへの関与を裏付けるデータとなった。また、我々の開発したSR-GVHDマウスモデルを応用し、NLRP6KOマウスをホストとして、ステロイド治療を行うと、全てのマウスがSR-GVHDを発症した。この研究結果は、NLRP6が多彩な免疫機能を持つ可能性を示唆しており、最終年度ではNLRP6のステロイド不応性GVHDにおける影響について詳細な解析を行う予定である。
2: おおむね順調に進展している
上記の研究実績の概要に記載したように、GVHD発症時の腸内細菌由来メタボライトを解析すると、タウリン代謝に関連するIsethionic acidが同種移植群で低下していることから、間接的にNLRP6との関連性が明らかになった。また、NLRP6KOマウスをホストとした同種移植モデルでは、ステロイド治療にすべて抵抗性を示したことから、NLRP6のSR-GVHDへの関連が示唆された。本研究の結果から、NLRP6が多彩な免疫機能を持つ可能性が示唆された。
今後、NLRP6欠損マウスをホストとした同種移植及びNLRP6欠損のT細胞を輸注した移植系において、NLRP6のステロイド不応性GVHDにおける影響を検討する予定である。特に、ステロイドを投与した場合に、NLRP6欠損マウスではSR-GVHDを全例で発症することから、NLRP6の宿主側の要因のみならず、ドナー側にも焦点を当てた解析が必要となる可能性があり、引き続き検討を重ねていく予定である。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件)
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