研究課題/領域番号 |
20K08705
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
高山 直也 千葉大学, 大学院医学研究院, 講師 (10584229)
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研究分担者 |
大島 基彦 東京大学, 医科学研究所, 助教 (70506287)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ヒト造血幹細胞 / クロマチンループ / CTCF / HiC |
研究実績の概要 |
令和2年度は以下を明らかにした。 ①HiCの結果、LT-HSCとST-HSCの間には、明確なTAD (Topologically Associated Domain)の変化は観察されなかった。一方、現状の少数の細胞を用いたHiCでは、TADの観察までが限界であった。さらに解像度を上げたクロマチンループを観察するために、白血病細胞株であるOCI-AML2でのHiCデータを取得し、比較したところ、LT-HSCからST-HSCへと分化に伴い開いていく領域では351個のCTCFが結合するクロマチンループが同定され、そのループ内には412個の遺伝子が内包されていた。興味深いことにこれらのループ内の遺伝子のほとんどが、LT-HSCからST-HSCの分化に伴い、発現が抑制されることから、同定した351個のCTCFループは転写抑制に働くクロマチンループであることが分かった。またこれらのループに内包される遺伝子は、従来報告されてきた幹細胞制御経路である、細胞周期、アポトーシス、代謝、インターフェロンシグナルなどに関連する遺伝子であった。 ②遺伝子Xノックアウト後のヒト臍帯血由来造血幹細胞を免疫不全マウスに移植し、4週、16週のキメリズム解析を実施した結果、4週目からすでに造血幹細胞数の減少が始まり、16週では有意に低下した。一方、相対的にMLP(Myeloid Lymphoid Progenitor)分画が上昇しており、遺伝子Xは造血幹細胞からMLPまでのごく早期の分化段階を制御する因子であることが明らかになり、CTCFノックダウンで観察される分化制御と一致した結果であった。 ③メチルセルロース内でのin vitroのコロニー形性能評価では、造血幹細胞段階でのノックダウンにより、コロニー形成の促進が観察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HiCの解析を行い、現状の低解像度での解析結果から、TADには明らかな変化がないことを確認した。一方、白血病細胞株のデータを組み合わせて解析した結果、LT-HSC→ST-HSCのごく初期の分化では、抑制系のクロマチンループにより幹細胞制御経路がシャットダウンされる必要があることを新たに見出した。 また、CTCFの標的分子の一つである遺伝子Xのノックダウンによる造血幹細胞機能の評価では、予定通り、in vivoの1次移植解析を終了し、マウス体内での造血幹細胞の減少が観察された。一方で、16週までの観察で、キメリズムの低下は明らかにはならず、2次移植を行い、更なる長期の骨髄再構築能の観察が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
一次移植の16週後の段階では、成熟した血液細胞の明らかな低下は明らかにはならなかったが、LT-HSCの有意な低下が観察されたため、16週のマウスの骨髄血からヒト血液細胞を分取し、2次移植を開始し、より長期での骨髄再構築能の変化や白血病化の有無を検証する。また、一次移植での骨髄内LT-HSCの減少が確認されたが、in vitroのコロニー形性能評価では、コロニー数が増加することから、分化の促進による造血幹細胞の枯渇が疑われた。引き続き細胞周期解析、遺伝子発現解析、アポトーシス解析を進める。
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備考 |
臍帯血由来のヒト造血幹・前駆細胞のクロマチン(注1)状態の変化に着目し、ヒト造血幹細胞による幹細胞制御機構の分子メカニズムを明らかにしました。メカニズムが明らかになったことにより、幹細胞制御機構の破綻で生じる白血病などの難治性血液疾患(注2)の発症機序の解明にも貢献することが期待されます。 本研究成果は、2021年3月4日、米国の国際医科学雑誌『Cell Stem Cell』に公開されました。
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