自己免疫性造血不全における新たな免疫回避機構による造血制御変容の基盤的解明

2022 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 20K08707
• 研究機関: 金沢大学
• 研究代表者: 片桐 孝和 金沢大学, 保健学系, 准教授 (60621159)
• 研究分担者: 細川 晃平 金沢大学, 附属病院, 助教 (10786239)
• 研究期間 (年度): 2020-04-01 – 2023-03-31
• キーワード: iPS細胞 / HLA / 自己免疫疾患 / 造血幹細胞 / 骨髄移植 / 免疫不全マウス

研究実績の概要

自己免疫性骨髄不全は、造血幹前駆細胞（HSPC）に対する自己の細胞傷害性T細胞（CTL）の攻撃が発端となって発症する造血不全である。恒常的な造血を目的としたHSPCの「免疫回避手段の多様性」と、それに伴う「造血制御の変容」は未だに解明されていない。これまでに、本疾患の約13%において、第6染色体短腕の片親性ダイソミーにより一側のHLAハプロタイプを欠失したloss of heterozygosity血球（6pLOH血球）が検出され、それらの血球がクローン性に造血を支持していることを世界で初めて明らかにした。その後、6pLOHにより最も欠失しやすいHLA-B*40:02遺伝子に着目し、シークエンシングにより当該領域を詳細に検討したところ、全体の75%がHLA-B*40:02欠失血球陽性であり、その80%ではHLA-B*40:02の機能喪失型変異によるHLA-B*40:02単独欠失血球が検出されることを見出した。その上で、6pLOHのハプロタイプに含まれないHLA遺伝子を保有し、かつ、HLA-B*40:02の機能喪失型変異を保有しない例のHLAクラスI領域をシークエンシングした結果、HSPCがCTLからの免疫学的攻撃を回避する手段として、上述のメカニズム以外の機構が存在する可能性が考えられた。
本研究により、造血制御に関与するケモカインのひとつであるCXCR4の発現が、HLA欠失HSPCにおいて著明に低下していることを明らかにした。また、MDS症例および体細胞変異を有する自己免疫性骨髄不全症例においても、CXCR4の発現が有意に低下していることを見出した。さらに、患者iPS細胞から誘導したHSPCを用いた移植実験により、その発現がepigenetic memoryとして制御されている可能性を見出した。これらの研究成果を、2022年7月にEJHaem誌にて報告した。

研究成果

• [雑誌論文] Hematopoietic stem progenitor cells with malignancy-related gene mutations in patients with acquired aplastic anemia are characterized by the increased expression of CXCR4. (2022)
  • 著者名/発表者名: Takamasa Katagiri, Jorge Luis Espinoza, Mizuho Uemori, Honoka Ikeda, Kohei Hosokawa, et al.
  • 雑誌名: EJHaem 巻: 3 ページ: 669～680
  • DOI: 10.1002/jha2.515.
  • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
• [雑誌論文] Frequent HLA-DR loss on hematopoietic stem progenitor cells in patients with cyclosporine-dependent aplastic anemia carrying HLA-DR15. (2022)
  • 著者名/発表者名: Noriaki Tsuji, Kohei Hosokawa, Ryota Urushihara, Mikoto Tanabe, Takamasa Katagiri, Tatsuhiko Ozawa, Hiroyuki Takamatsu, Ken Ishiyama, Hirohito Yamazaki, Hiroyuki Kishi, Seishi Ogawa, Shinji Nakao.
  • 雑誌名: Leukemia 巻: 36 ページ: 1666～1675
  • DOI: 10.1038/s41375-022-01549-6.
  • 査読あり
• [学会発表] HLA Class I Allele-Specific Pathology Defines Clinical Manifestations of Immune Aplastic Anemia. (2022)
  • 著者名/発表者名: Yoshitaka Zaimoku, Hiroki Mizumaki, Takeshi Yoroidaka, Noriharu Nakagawa, Tatsuya Imi, Hiroyuki Maruyama, Mikoto Tanabe, Noriaki Tsuji, Ryota Urushihara, Kohei Hosokawa, Takamasa Katagiri, Hiroyuki Takamatsu, Ken Ishiyama, Hirohito Yamazaki, Toshihiro Miyamoto, Shinji Nakao.
  • 学会等名: 64th American Society of Hematology Annual Meeting
  • 国際学会
• [学会発表] HSPCs with MDS-related mutations in aplastic anemia are characterized by increased CXCR4 expression. (2022)
  • 著者名/発表者名: 片桐孝和、Juis Espinoza、上森瑞穂、池田ほのか、細川晃平、石山謙、鎧高健志、井美達也、高松博幸、小澤龍彦、岸裕幸、山本靖彦、Mahmoud Elbadry、吉田善紀、蝶名林和久、竹中克斗、赤司浩一、南谷泰仁、小川誠司、中尾眞二.
  • 学会等名: 第84回日本血液学会学術集会
• [学会発表] HLA class I allele-lacking leukocytes prevent the development of secondary PNH in aplastic anemia. (2022)
  • 著者名/発表者名: 細川晃平、水牧裕希、鎧高健志 、丸山裕之 、井美達也 、辻紀章、漆原涼太、 田辺命 、材木義隆、Maianh Thinguyen、Dung Cao Tran Thi、石山謙 、山崎宏人 、片桐孝和 、高松博幸 、細道一善 、田嶋敦 、東史啓 、小川誠司 、宮本敏浩 、中尾眞二.
  • 学会等名: 第84回日本血液学会学術集会
• [学会発表] SCFおよびTNF-βによる限局的造血制御. (2022)
  • 著者名/発表者名: 長原里紗、内沢萌々、岩﨑寛香、上森瑞穂、片桐孝和.
  • 学会等名: 第46回北陸臨床病理集談会
• [学会発表] IFN-γによる広汎性造血制御. (2022)
  • 著者名/発表者名: 岩﨑寛香、内沢萌々、長原里紗、上森瑞穂、片桐孝和.
  • 学会等名: 第46回北陸臨床病理集談会
• [学会発表] 再生不良性貧血における体細胞変異を有する造血幹前駆細胞の特性. (2022)
  • 著者名/発表者名: 上森瑞穂、池田ほのか、岩﨑寛香、片桐孝和.
  • 学会等名: 第46回北陸臨床病理集談会
• [備考] 金沢大学研究者情報
  • URL: https://ridb.kanazawa-u.ac.jp/public/detail.php?id=4033.