研究課題
フォン・ウィルブランド因子 (VWF)のヘパリン結合ドメインは成長因子(Growth factor: GF)に結合し、創傷治癒において血管新生を促進する。止血以外のVWFの新たな重要な機能である可能性がある。今年度は血管内皮細胞におけるVWFの発現の有無が血管新生能に関与する可能性につき検討した。血管新生の評価としては、細胞遊走能(Scratch assay)、管腔形成能(Matrigel assay)をtype 3 VWD患者より同意を得て樹立したECFC(endothelial colony-forming cells)で検討した。Scratch assay では24well plateに10sup5/wellずつ細胞を播種してtipの先端で引っ掻いた部分の閉塞率を評価(閉塞率が高いほど良好な遊走能)した。ECFCにおけるVWF発現の有無は遊走能には大きな影響を与えていなかった。Matrigel assayでは24well plateにMatrigel (細胞外基質)をcoating、10sup5 /wellの細胞を播種しその後の経時的変化をImage JのプラグインであるAngiogenesis Analyzerによってnode、segment、mesh、branchの数を検討した。node、segment、meshはType3 VWD由来のECFCでは対照群に比していずれも減少しており、ECにおけるVWFの発現が管腔形成能の指標であるこれら3要素に関与する可能性が示唆された。しかしBranchの数はType3 VWDのうち1例では対照群と同程度維持されており、他の3要素とはVWFの関与の程度が異なる可能性も考慮された。また、VWD患者における血漿中VEGF165b濃度をHuman VEGF165b DuoSet ELISA DY3045で測定した。type 3の1例とAvWSの1例でVEGF165b濃度が上昇していた。次年度にさらに症例を増やして解析する予定である。
2: おおむね順調に進展している
精製VEGF-A165およびVEGF-A165b蛋白の調達は回復し、今年度のアッセイを行うことができた。引き続きVEGF-A165およびVEGF-A165b のヘパリン結合能を検討中である。ECFCの実験系は生体外で血管内皮環境を再現し、その挙動を検討するに極めて有用な系であるが、樹立に成功し細胞群が増殖するに時間を要することや、中に樹立が難しいドナーもいることから検討可能な数が限られる。よって予備検討をもとに樹立・増殖が十分期待できるドナーを慎重に選定しなければならない。加えてScratch assayとMatrigel assayの条件検討とその最適化に若干時間を要している。なお、新型コロナウイルス感染症の流行によって、血管新生能の評価に必要な実験資材の一部(Boyden chamber)の納期はまだ遅延している。
VWFの欠損型であるType3 VWD由来のBOECを用いた血管新生の評価において、管腔形成能に異常を有する可能性が示唆されたことから、VWFは主に管腔形成のプロセスに作用する可能性が考えられた。血管異形成を生じる割合はType3 VWDが最多であり、その病態とVWFとの関わりを検討するモデルとして有用である。しかしながら、今回BOECが樹立した2例はこれまでに相応の出血症状を繰り返してきた病歴があるが、樹立しなかった1例は前2者とは異なり、出血症状が明らかに軽度であり血管異形成の有無も含め興味深い症例である。この症例に関してはBOECの樹立はもちろん、その分子病態も含めた詳細な検討を行う必要があると考えている。また、一部のType3 VWD患者の血中VEGF-A165b濃度が上昇していることが判明しており、Type3 VWDの出血歴に関する情報収集から、血管異形成の関与が疑われる症例を抽出し、遺伝子解析をはじめとする分子病態の解析とともに、VEGFやAngiopoietinといった血管新生に係る因子の発現状態を見出し、VWD特有の血管異形成の分子病態検討へ発展させたいと考える。患者由来ECFCを用いた検討を終了したのち、次年度は野生マウス/VWFノックアウトマウスを用いた検討のため、マウス個体数を増加させる。
VWD患者における血漿中Ang-1、Ang-2、VEGF、Gal-3 (ng/ml)濃度を測定すべくHuman ELISAキットを発注したが納期が3月末と遅れたため、費用消尽に若干の影響が発生した。測定自体は次年度において実施中である。
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