研究課題/領域番号 |
20K08718
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研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
田村 志宣 和歌山県立医科大学, 医学部, 准教授 (10364085)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 原発性免疫不全症 / 炎症性腸疾患 / DNAリガーゼIV / 遺伝子再構成障害 / LIG4症候群 / ヘルパーT細胞 |
研究実績の概要 |
申請者は、成長障害、免疫不全に加えて、難治性の腸炎を伴う症例を経験した。全エクソーム解析により、DNAリガーゼIV(LIG4)の遺伝子座に、新規の複合ヘテロ変異(W447C/E413X)を見出し、Omenn症候群の一つであるLIG4症候群と診断した。申請者は、特にW447C変異に注目し、その病理学的な意義を明らかにするため、Lig4遺伝子にW447C変異を導入したマウス(Lig4遺伝子改変マウス)を作成した。Lig4遺伝子改変マウスにおいて、成長障害、獲得免疫不全に加え、潰瘍を伴う腸炎を主体とするユニークな腸病変が発症することを見出した。本研究では、Lig4遺伝子改変マウスに生じたユニークな病態の解析を進めており、現時点でいくつかの結果を得ることができた。 1)放射線照射したRag2欠損マウス(T細胞・B細胞が欠失するマウス)に、Lig4遺伝子改変マウス由来の骨髄細胞を移植した骨髄キメラマウスを作成した。この骨髄キメラマウスにおいて、移植後8週頃から下痢症状が出現し、組織学的には、大腸において粘膜の肥厚と共に炎症細胞の著明な浸潤が認められた。2)Lig4遺伝子改変マウスとRag2欠損マウスを交配させ、ダブル遺伝子変異マウスを作成した。このダブル遺伝子変異マウスでは、成長障害があるものの、腸炎の発症は全く認めなられなかった。3)Lig4遺伝子改変マウスの腸管浸潤していたCD4陽性T細胞集団の機能的特性を明らかにするため、小腸リンパ球のRNA-Seq解析を行った。その結果、IFN-γやT-betなどTh1関連遺伝子群の発現が増強すると共に、IL-17などTh17関連遺伝子群の発現は低下する傾向が認められた。 これらの結果より、Lig4遺伝子改変マウスに生じる腸炎の病態形成には、免疫担当細胞、特に、Th1細胞が関与している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度では、Lig4遺伝子改変マウスで発症する腸炎の病態形成には、造血系細胞、特に、免疫担当細胞の異常であることが明らかになった。このことから、免疫担当細胞を中心とした細胞移入実験やダブル遺伝子変異マウスの作成に着手できている。さらに、小腸・大腸の粘膜に浸潤するCD4陽性T細胞の機能特性を明らかにするために、網羅的な遺伝子発現解析を計画し、一部結果が得られているが、それら炎症臓器からのリンパ球の単離にやや苦戦している。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、まず、小腸リンパ球のRNA-Seq解析で得られた結果を、細胞染色やリアルタイムRT-PCR法により検証し、大腸リンパ球との比較解析を行う。さらに、詳細なシングルセル解析を行い、病態に関連すると考えられるT細胞集団あるいはクローンの同定を進める。 また、腸管からリンパ球を単離し、非刺激、あるいは、抗CD3抗体などで刺激後、細胞内サイトカインや各種抗体による染色、FACS解析、ELISA法などの解析を行い、サイトカインや増殖(IL-2受容体CD25など)、活性化(CD28などの共刺激分子、CD69など)、腸管へのホーミング(ケモカイン受容体CCR9、インテグリンα4β7など)などに関連する機能分子の発現をタンパク質発現、機能の面から詳細に解析する予定である。
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