研究課題/領域番号 |
20K08724
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
加藤 貴康 筑波大学, 医学医療系, 講師 (20646591)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ELOVL6 / 脂肪酸の質 / 白血病 / 造血幹細胞 |
研究実績の概要 |
‘脂質の質’は様々な生命現象に影響を与えるが、造血細胞に対する‘脂質の質’の影響はこれまで不明であった。 本研究は生命維持に不可欠である脂肪酸に注目し、‘脂肪酸の質’の変化が造血幹細胞および造血器腫瘍に与える影響やメカニズムを解明することで造血器腫瘍における新規治療法の開発を目指すことを目的としている。 長鎖脂肪酸伸長酵素である“ELOVL6”は主に、飽和および一価不飽和C16脂肪酸をC18脂肪酸に変換する酵素であり、‘脂肪酸の質’を制御している。本研究はElovl6欠損マウスを用い、‘脂肪酸の質’が造血幹細胞の生着能に影響を与えること、さらに白血病の発症に影響を与えることを発見した。これまで造血幹細胞や造血器腫瘍において脂肪酸の量に着目した報告は多いが、‘脂肪酸の質’に注目した報告は少なかった。Elovl6欠損による造血幹細胞および白血病の制御メカニズムとして、CXCL12-CXCR4-PI3K(ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ)経路の活性を低下させ、下流のRAC活性化を減弱させることを示し、この一連のシグナル伝達が、白血病発症抑制に関与している蓋然性が高いことを見出した。この結果は、‘脂肪酸の質’の変化が、おそらく原形質膜シグナル伝達を介して、正常及び白血化した造血細胞の活性を大きく変化させることが初めて実証された結果である。‘脂質の質’が白血病の新規治療ターゲットとなり得るため、現在Elovl6阻害剤を用いて、白血病マウスモデルやヒト白血病への効果を検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
‘脂肪酸の質’の変化を引き起こすELOVL6欠失マウスを用い、’脂肪酸の質’による白血病発症制御および造血幹細胞制御のメカニズムについての解析は順調にいっている。造血幹細胞の解析は、マウスから得られる細胞数の制限やマウス交配・繁殖に時間がかかり、やや遅れているが、概ね予定どおりに進行している。現在ELOVL6欠失マウスにおける白血病抑制と造血幹細胞制御機構の本研究結果につき、論文投稿中である。またELOVL6阻害剤によるヒト白血病細胞株およびマウス白血病治療モデルを検討中である。ヒト白血病検体については、現在当研究室の検体保存サンプルからRNAシークエンス解析用の調整や脂肪酸メタボローム解析用サンプル調整は順調にすすんでいるが、上記論文の追加実験を行っているため、ヒト検体の解析は遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は生命維持に不可欠である脂肪酸に注目し、‘脂肪酸の質’の変化が造血幹細胞および造血器腫瘍に与える影響やメカニズムを解明することで造血器腫瘍における新規治療法の開発を目指すことを目的としている。 これまでの研究結果としてElovl6欠損マウスを用い‘脂肪酸の質’がどのようなメカニズムで造血幹細胞の生着能や白血病発症を制御するのかを解明した。またマウス白血病細胞の脂質解析を行い、Elovl6による’脂肪酸の質’の変化がどの脂質に影響を与えているか同定した。上記結果については現在論文投稿中である。今後はヒト造血幹細胞およびヒト白血病検体を用いて‘脂肪酸の質’を解析することにより、マウス研究で得た知見を臨床に橋渡しすることも目的としている。これまでの脂質研究は脂肪酸の量に注目した研究が多いが、本研究は造血幹細胞および造血器腫瘍について‘脂肪酸の質’をターゲットとしており、これまでの研究成果より白血病治療の新規ターゲットを同定できる可能性があるだけでなく、造血幹細胞移植治療におけるドナー選択(臍帯血等)に‘脂肪酸の質’が重要な選択基準の一つとなりうる可能性を秘めている。 まずはELOVL6をターゲットとした白血病治療モデル検討のため、ELOVL6阻害剤(プロトタイプ)を用いたin vitroおよびin vivo解析を予定している。次にELOVL6阻害剤が白血病新規治療薬となり得る知見を得られた際には、急性骨髄性白血病に対する新規ELOVL6阻害剤を開発するため、ドラッグスクリーニングを行い、臨床研究(第一相)を目指して研究を推進していく予定である。
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