研究課題
‘脂質の質’が造血細胞に与える影響はこれまで不明であった。本研究は生命維持に不可欠であり、脂質の重要な構成要素である脂肪酸に注目し、‘脂肪酸の質’の変化が造血幹細胞および造血器腫瘍に与える影響やそのメカニズムを解明し、‘脂質の質’を治療標的とした造血器腫瘍の新規治療法開発を目指すことを目的としている。造血幹細胞や造血器腫瘍において脂肪酸の量に着目した報告は多数あるが、‘脂肪酸の質’に注目した報告はこれまで少なかった。炭素鎖長(C)が16と18の長鎖脂肪酸は細胞内に最も多く存在し、長鎖脂肪酸伸長酵素である“ELOVL6”は、主に飽和および一価不飽和C16脂肪酸をC18脂肪酸に変換することで‘脂肪酸の質’を制御している。本研究では造血幹細胞を含む未熟な造血細胞でELOVL6を高発現していること、およびヒト急性骨髄性白血病の予後にELOVL6の発現が関連すること同定した。またElovl6欠損マウスを用い、‘脂肪酸の質’が造血幹細胞の移植時の生着に影響を与えること、さらに白血病の発症を制御していることを発見した。Elovl6欠損による造血幹細胞および白血病の制御メカニズムとして、‘脂質の質’の変化がCXCL12-CXCR4-PI3K(ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ)経路の活性を低下させ、下流のRAC活性化を減弱し、細胞遊走能が著しく低下することを示し、この一連のシグナル伝達が、白血病発症抑制に関与している蓋然性が高いことを報告した。この結果は、‘脂肪酸の質’の変化が、細胞伝達シグナルを介して造血幹細胞及び白血病細胞の活性を大きく変化させることを初めて実証した結果である。現在、‘脂質の質’が、急性骨髄性白血病の新規治療ターゲットになり得るかを、白血病マウス治療モデルで解析中であり、今後はマウスで得られた知見をヒト白血病検体で応用可能か、検討を継続していく予定である。
すべて 2023 2022 その他
すべて 雑誌論文 (1件) 学会発表 (4件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件)
Leukemia
巻: 37 ページ: 910~913
10.1038/s41375-023-01842-y
https://www.tsukuba.ac.jp/journal/medicine-health/20230316140000.html