研究課題/領域番号 |
20K08726
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
今井 陽一 東京大学, 医科学研究所, 准教授 (10345209)
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研究分担者 |
安井 寛 東京大学, 医科学研究所, 特任准教授 (40448593)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 多発性骨髄腫 / HDAC阻害薬 / AKT / CUDC-907 / セレブロン / レナリドミド / AML / FLT3 |
研究実績の概要 |
① 多発性骨髄腫臨床検体・マウスモデルを用いた、HDAC及びAKTの阻害による骨髄腫難治性克服の検討 HDAC阻害薬は薬剤耐性多発性骨髄腫細胞株の増殖をセレブロン非依存性に抑制した。さらに、natural killer group 2D (NKG2D)リガンドの発現増加を介して治療抗体のantibody dependent cellular cytotoxicity (ADCC)を増強した。セレブロン欠失細胞においてレナリドミド投与はglycogen synthase kinase-3 (GSK-3)のリン酸化とc-Mycの発現増加を誘導した。HDAC及びAKTの阻害はGSK-3のリン酸化の阻害によりc-Mycの発現低下をもたらし、相乗的に抗腫瘍効果を示した。HDAC及びAKTのdual inhibitorであるCUDC-907は多剤耐性の細胞株も含めた骨髄腫細胞株に対して抗腫瘍効果と抗体療法の作用を増強した。CUDC-907の効果は、セレブロン欠失細胞を用いた多発性骨髄腫マウスモデルやレナリドミド耐性例も含めた症例検体においても認められた。以上から、HDAC及びAKTの阻害によりレナリドミド耐性を含めた薬剤耐性を克服する可能性が示された。 ② FLT3阻害薬などの低分子化合物による免疫賦活化の可能性の検討とそれを利用したAML新規治療法の開発 AMLの再発には抗腫瘍免疫からのescapeが関与し、免疫チェックポイントCD155/CD112はAMLの進行に関わる。CD155/CD112発現はFLT3阻害薬の標的のひとつであるRaf-MEK-ERKシグナルで制御されている。FLT3阻害薬はFLT3遺伝子変異特異的にAML細胞株でCD155/CD112の発現を低下させ、NK細胞の直接の抗腫瘍効果、ADCCを増強し腫瘍免疫を賦活化することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
① 多発性骨髄腫臨床検体・マウスモデルを用いた、HDAC及びAKTの阻害による骨髄腫難治性克服の検討 得られた成果についてHirano M, Imai Y, et al., Small-molecule HDAC and Akt inhibitors suppress tumor growth and enhance immunotherapy in multiple myeloma. Journal of Experimental & Clinical Cancer Research (2021) 40:110として論文報告を行った。以上から当初の目標は達成したと考えられる。 ② FLT3阻害薬などの低分子化合物による免疫賦活化の可能性の検討とそれを利用したAML新規治療法の開発 2020年度の目標であるキザルチニブ、ギルテニチブ処理による白血病細胞株での免疫チェックポイント分子CD155/CD112発現の変化の解析について、FLT3変異依存的にCD155/CD112が低下することを明らかにした。さらに、NK細胞の抗腫瘍作用や、ADCC作用がFLT3阻害薬で増強するか解析した。その結果、FLT3阻害薬でNK細胞の直接の抗腫瘍作用が増強することを明らかにした。ADCC作用についてはCD38がAML細胞で発現し、FLT3阻害薬処理によって変化しないことを明らかにしたうえで、抗CD38抗体ダラツムマブのADCC作用がAML細胞のFLT3阻害薬処理によって増強することを明らかにした。T細胞の細胞傷害活性については、gamma delta T細胞を使った解析を行い、FLT3阻害薬によって変化しないことを明らかにした。以上の結果から、FLT3阻害薬によりNK細胞のAML細胞に対する抗腫瘍効果が増強する可能性が示され、当初の目標を達成したと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、免疫チェックポイント分子CD155/CD112がNK細胞の抗AML効果の制御において重要な役割を果たすことを明らかにした。そこで、今後はCD155/CD112に対するNK細胞側の受容体であるDNAM-1, TIGIT分子によるNK細胞の抗AML効果の制御機構について明らかにする。DNAM-1はNK細胞の活性化受容体と考えられており、NK細胞株であるNK-92にレンチウイルスを用いて導入し、NK-92細胞が活性化するか解析する。TIGITはNK細胞の不活化作用があると考えられており、CRISPR-Cas9による遺伝子編集によりNK-92細胞でノックアウトし、抗腫瘍効果が増強するか解析する。これらの解析において、NK細胞の直接の抗腫瘍効果に加えて、ダラツムマブのADCC作用の変化についても解析する。CD155/CD112を遺伝子編集によりノックアウトしたAML細胞を持ちいて上記の解析を行い、DNAM-1あるいはTIGITの作用がCD155/CD112に依存しているか検討する。 DNAM-1およびTIGITの遺伝子編集によりNK細胞の機能が変化する場合にはRNAseq解析を行い、NK細胞の機能変化に関わる遺伝子群の同定を試みる。遺伝子が同定された場合には、iPS細胞で同定された遺伝子の遺伝子編集を行う。遺伝子編集されたiPS細胞からNK細胞への分化誘導を行い機能を解析して、同定された遺伝子のNK細胞の機能制御において果たす役割を明らかにする。 DNAM-1およびTIGITの遺伝子編集NK細胞の抗AML効果について、ヒト白血病マウスモデルを用いてin vivoで解析する。ダラツムマブのADCC作用の変化についてもin vivoで解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月に使用予定であった物品が新型コロナ禍の影響で到着せず、次年度に支払うこととなったため。次年度に繰り越した予算で予定物品を購入する。
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