研究課題/領域番号 |
20K08728
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中島 やえ子 東京大学, 医科学研究所, 助教 (50749497)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ポリコーム / Pcgf1 / PRC1.1 / emergency myelopoiesis / 細胞死 |
研究実績の概要 |
造血細胞特異的Pcgf1欠損マウス(Pcgf1 cKO)を用いた解析から、Pcgf1は骨髄球分化を抑制的に制御し、造血幹細胞の多様な分化を担保することが示唆されている。本研究では、定常造血から感染、炎症ストレスによる骨髄増多反応(emergency myelopoiesis)への造血分化の切り替えと細胞死制御におけるPcgf1の役割を明らかにする。 まずは、定常状態からemergency myelopoiesisへの切り替えにおけるPcgf1の役割を明らかにするためにPcgf1 cKOの造血幹前駆細胞と骨髄球系前駆細胞を用いたsingle cell RNA-seq解析を実施した。合わせて骨髄球系前駆細胞を用いたH2AK119Ub1(Pcgf1を含むポリコーム群複合体であるPRC1.1がそのUb修飾を行う)ChIP-seqも行った。これらのNGS解析は現在データ解析中であり、解析結果からより詳細なPcgf1の寄与が明らかになると期待している。 また、Pcgf1 cKOにLPS投与(感染、炎症ストレスモデル)を行うと骨髄の造血細胞が著しい細胞死を引き起こす。この細胞死の誘導は、Pcgf1と同様にPRC1.1複合体の構成因子であるBcor cKOマウスでも観察された。このことはPcgf1とBcorを共に含むPRC1.1が細胞死制御に関わるという仮説を支持する結果である。一方で、Pcgf1とTlr4の二重遺伝子欠損マウスにおいては著しい細胞死の誘導はレスキューされ、Tlr4を介するシグナルが重要であることが明らかになりつつある。 さらに、LPS投与したPcgf1 cKOの骨髄細胞を電子顕微鏡を用いて形態観察を行ったところ細胞膜の崩壊が観察された。このことからアポトーシスではなくパイロプトーシスやネクロプトーシスといった炎症性細胞死が起こっているものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
NGS解析が順調に進み、データ解析の段階まで達成することができた。データ解析に関しても所属研究室がsingle cell RNA-seq、ChIP-seq共に解析経験が豊富であるため順調に進められると考えている。 また、細胞死の解析に関してはいくつかの二重遺伝子欠損マウスを作製し、使用する計画である。そのうちの一つであるPcgf1/Tlr4マウスに関してはすでに解析を開始することができており、また他の二重遺伝子欠損マウス(Pcgf1/Gsdmd<パイロプトーシス因子>、Pcgf1/Mlkl<ネクロプトーシス因子>)に関しても順調に交配が進み、解析間近である。
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今後の研究の推進方策 |
NGS解析に関しては、データ解析を進め、Pcgf1が寄与する分子メカニズムの詳細を明らかにしていきたい。データ解析を進める中で新たな重要分子が浮かび上がって来た場合には、その分子に注目した分子生物学的解析を行うことも検討する。 細胞死の解析に関しては、現在パイロプトーシス因子Gsdmdもしくはネクロプトーシス因子MlklとPcgf1との二重遺伝子欠損マウスの作成を進めており、これらのマウスが完成したら、LPS投与実験を行い、種々の細胞死のうちどの細胞死にPcgf1が関与するのか同定する。細胞死の同定後はその細胞死誘導シグナルとPcgf1の関わりに関して詳細な解析を進める。
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