研究課題/領域番号 |
20K08732
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
尾路 祐介 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (20294100)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | WT1 / がん代謝 / 分子標的 |
研究実績の概要 |
白血病や様々な固形悪性腫瘍に過剰発現するWT1タンパクが代謝酵素Y1およびY2に直接結合して酵素活性を増強することで白血病細胞の代謝制御に関与する可能性に基づき、1)WT1とこれらの代謝酵素のタンパク-タンパク間相互作用(PPI)を阻害するペプチドが、①生細胞内でWT1と代謝酵素のPPIを阻害する(Nanobitシステムによる検討)、②代謝酵素Y1およびY2の酵素活性を直接には阻害しない、③白血病細胞を強く傷害する一方で、正常血球をほとんど傷害しないことを明らかにし、WT1と代謝酵素Y1およびY2のPPIが白血病細胞の治療標的として妥当であることを示した。2)WT1-代謝酵素のPPI阻害活性を有するペプチドの代謝安定性を高めた非天然型のD体ペプチドを作成し、これがPPI阻害活性を維持し、天然型のL体ペプチドに比べより優れた抗腫瘍効果を有することを示した。さらに3)膵がんおよび悪性神経膠腫細胞をWT1-代謝酵素Y1およびY2のPPI阻害活性を有するペプチドで処理したところ、これらの細胞の増殖は強く抑制された。これらの結果はWT1と代謝酵素のPPIが白血病以外の固形悪性腫瘍においてもWT1と代謝酵素のPPIが生存に重要な役割を果たし、治療標的になりうることを示している。4) WT1-代謝酵素Y1、Y2のPPIをターゲットとする新規化合物の開発を目指し、化合物デザインにPPI阻害ペプチドの構造を参考にして、構造展開を行った。これまでにリード化合物の構造展開により基本骨格が異なる、ふたつのケミカルシリーズの新規化合物群を得た。WT1-代謝酵素Y1およびY2のPPIをターゲットとする白血病や悪性リンパ腫の新たな治療法の開発につながる可能性がある。 (代謝酵素Y1およびY2は特許申請のため非公表とさせて頂きます。)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下の進展が2021年度に得られ、本研究課題はおおむね順調に進捗していると考える。 ・WT1と代謝酵素Y1およびY2の結合が白血病細胞の治療標的として妥当であることを示した。 ・安定性を高めたWT1-代謝酵素Y1およびY2のPPI阻害ペプチドを取得することができた ・WT1と代謝酵素Y1およびY2の結合が白血病以外の固形がん 膵がんおよび悪性神経膠腫でも治療標的となりうることを示した。 ・WT1-代謝酵素Y1、Y2のPPIを強力に阻害する新規化合物の開発を進め、ふたつのケミカルシリーズの新規性のある化合物群を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
(1)WT1タンパクと代謝酵素Y1 Y2の相互作用の詳細の解明: WT1結合による代謝酵素Y1・Y2の立体構造変化およびWT1-Y1,Y2のPPIに関与するホットスポットの探索を行う。 (2)WT1タンパクと代謝酵素Y1 Y2のPPIの果たす機能: WT1タンパクと代謝酵素Y1 Y2のPPI阻害時に腫瘍細胞に誘導される遺伝子変化を網羅的に解析し、このPPIの果たす機能について理解を深める。 (3)WT1-代謝酵素Y1・Y2のPPIを標的とした分子標的治療 3-1. in vivoでの抗腫瘍効果および安全性の検討:本研究では、複数のWT1発現腫瘍細胞のxenograft modelを用いてWT1-PPI阻害活性を有するペプチドおよび化合物のin vivo抗腫瘍活性を検討する。同時に、これらのWT1-Y1、Y2のPPIを標的としたPPI阻害化合物の安全性についても病理学的な検討を行う。 3-2 WT1-代謝酵素Y1およびY2のPPI阻害活性を有する医薬品候補化合物の取得 これまでに得られた2つのケミカルシリーズの構造展開により、さらに強力なPPI阻害活性を有し、良好な体内動態を示す化合物を同定し、アドバンストリード化合物、医薬品候補化合物を取得する。 3-3. synthetic lethalityとなるコンビネーション療法の同定 WT1-代謝酵素Y1およびY2のPPI阻害と相加あるいは相乗効果を示すコンビネーション療法が明らかになれば、より強力な分子標的治療法の開発につながる。上記(2)での解析により、WT1-代謝酵素Y1およびY2のPPI阻害時に発現が維持・増強する代謝関連遺伝子を同定し、それらが関与する代謝経路の阻害剤が、WT1-代謝酵素Y1およびY2のPPI阻害による抗腫瘍効果を増強するか検討する。
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