前年度までの研究により、1)WT1と代謝酵素Y1およびY2のPPIが白血病および固形悪性腫瘍に対する分子標的治療の標的となりうることを明らかにし、2)WT1-代謝酵素Y1、Y2のPPIをターゲットとするリード化合物を取得した。2022年度は、1)WT1と代謝酵素Y1およびY2のPPIをターゲットとする化合物について理解を深め、化合物の安定性や溶解度を改善するとともにより強い抗腫瘍効果を得ることを研究目的とした。AMED BINDSの支援のもと、活性本体の同定と化合物の各構造の抗腫瘍活性への寄与を検討した結果、化合物の安定性・溶解度ともに改善を認めたが、さらなる向上を目指し検討を続けている。2)WT1の特定の領域と代謝酵素Y1およびY2のPPI阻害が、これらの酵素の関与するステップのみならずY1、Y2の関与しない代謝経路の代謝ステップも抑制することをメタボローム解析により明らかにした。そこで新たに同定した代謝ステップに関与する代謝酵素にWT1タンパクが結合し代謝酵素の活性を増強している可能性を考えて、免疫沈降を行ったところこの酵素はWT1タンパクと共沈した。これらの結果は、腫瘍特異的に高発現するWT1タンパクが、特定の領域を介して、複数の代謝経路の代謝酵素群に直接結合し、これらのPPIを介して腫瘍細胞の代謝ネットワークを制御しがん代謝を促進していることを示唆している。(代謝酵素名は特許出願予定のため非公表とさせていただきます)WT1タンパクはこれまで核タンパクとして標的遺伝子の転写制御やmRNAのスプライシングの制御に関与してがん遺伝子としての機能を果たすことを我々や他のグループが報告してきたが、明らかになったWT1タンパクによる腫瘍細胞の代謝ネットワーク制御はWT1の新たながん遺伝子機能として注目される。
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