研究課題
成人T細胞白血病リンパ腫(ATLL)は、多剤併用化学療法のみでの治癒は望めず、同種造血幹細胞移植が治癒を目指せる唯一の治療法と考えられているが、移植後早期の再発例も多く、治療成績は決して満足できるものではない。本研究では、ATLL細胞に生じているHLA遺伝子異常の全体像を明らかにし、同種造血幹細胞移植を含む免疫療法の効果との関連を検討する。個々の患者の腫瘍細胞でのHLA遺伝子異常に基づき、HLA拘束性T細胞による免疫効果で層別化し、最も有効な治療を選択する個別化免疫療法の可能性を探ることを目的としている。ATLLの末梢血より腫瘍細胞と非腫瘍細胞の各分画からDNAを抽出し、long-range PCR法を用いて次世代シーケンサーによるHLA-A, -B, -C, -DRB1, -DQA1, -DQB1, -DPA1, -DPB1遺伝子全領域の解析を行った。その結果、急性型ATLLでは高率にHLA class I遺伝子のloss of heterozygosity (LOH)もしくは非同義置換・挿入/欠失などタンパク質の構造に影響を及ぼすことが示唆される変異の存在を認めた。一方、HLA class II遺伝子には非同義置換・挿入/欠失などの異常を認めなかった。さらに、フローサイトメトリー法でHLA class I分子の細胞表面上の発現を解析したところ、HLA class I遺伝子異常を生じている症例では生じていない症例よりも発現が有意に低下していた。これらの結果より、HLA遺伝子異常を生じているATLLの症例では免疫療法の効果が期待できない可能性が示唆される。今後HLA遺伝子の解析結果と同種移植後の効果や再発の有無など臨床情報との関連性を検討していく予定である。
2: おおむね順調に進展している
成人T細胞白血病リンパ腫に生じるHLA遺伝子異常を詳細に解析し、HLA class I遺伝子異常が高頻度に起きること、HLA class I遺伝子異常が生じた症例では細胞表面上でのHLA class I分子の発現が低下していることを明らかにすることができた。
今後さらに多数例でのHLA解析を実施し、同種移植やモガムリズマブに対する反応性など臨床情報との関連性を検討し、HLA遺伝子情報のバイオマーカーとしての有用性を検討する。
目標症例数の解析ができず、次年度に解析を持ち越すことになったため。費用は主に試薬購入に用いる。
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