研究実績の概要 |
高齢発症が特徴の多発性骨髄腫 (MM)は、成熟Bリンパ球において免疫グロブリンH 鎖遺伝子の座位する14番染色体を中心とした染色体相互転座が原因とされ、骨髄の幼若なBリンパ球のIgH遺伝子可変領域の再構成に伴う染色体相互転座が腫瘍化の原因である濾胞性リンパ腫とは異なる。本研究は、MMの腫瘍起源となる異常Bリンパ球は、成熟Bリンパ球が再プログラミング後に染色体異常を生じた細胞であることを証明するため、正常Bリンパ球からiPS細胞 (BiPSCs) を樹立し、さらにがん関連遺伝子 (KRAS, NRAS) の導入やゲノム編集により染色体転座t(11;14)を誘導しp53遺伝子を欠失させた。またこれらのBiPSCsはマウスストローマ細胞 (MS-5) との共培養において、臍帯血由来の造血前駆細胞 (HPC) とは異なりBリンパ球への分化は認められずさらに工夫が必要と考えられた。本研究では、BiPSCs由来のHPCからBリンパ球へ分化に必要な因子を見出し、それをBiPSCsに移入することで、異常Bリンパ球の発生機序の解明に繋がる細胞の作製を行う。 我々は正常Bリンパ球からiPS細胞を作製 (BiPSC) し、Tet-offシステムでAIDを発現誘導可能な細胞株(BiPSCs-AID)を樹立した。この細胞は元のBリンパ球と同様のIgH再構成を持つiPS細胞であり、CD34+/CD38-の骨髄前駆細胞 (HPC) に分化可能である (Sci Rep, 2017)。次にゲノム編集を用いて、BiPSCs-AIDに染色体転座t(11;14)とp53の欠失を誘導し (Sci Rep, 2021)、さらにMM発症の初期から認められるKras及びNrasの変異を持つBiPSCsを作製した。これらを単独またはHPCに分化後NRGマウスに移植し、MMまたはBリンパ系腫瘍の発生を試みている。
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