研究課題/領域番号 |
20K08743
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
田中 宏和 近畿大学, 医学部, 准教授 (40360846)
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研究分担者 |
松村 到 近畿大学, 医学部, 教授 (00294083)
頼 晋也 近畿大学, 医学部, 講師 (70460855)
森田 泰慶 近畿大学, 医学部, 講師 (80411594)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 多発性骨髄腫 / 骨髄微小環境 / 腫瘍免疫 |
研究実績の概要 |
本研究では、治療前後の様々な奏効にある多発性骨髄腫(MM)幹細胞を用いて、免疫チェックポイント分子の発現変化と発現調節機序を解析するとともに、細胞障害性T細胞, CTL、制御性T細胞, Tregなど抗腫瘍免疫を担当する細胞の特性を解析することで、MM患者の病態と抗腫瘍免疫との関連を包括的に明らかにすることを目的とする。治療により部分寛解、あるいは完全寛解を得ている症例の骨髄から、申請者らが同定したMM幹細胞集団CD34+38+138+45-19-細胞(CD34+ phenotypic MM cell, phMC)を分離し、CD34+ phMC, CD34- PhMCにおける抗腫瘍免疫に関わる免疫チェックポイント分子の発現を網羅的に比較した。その結果、CD274 (PDL1)の他, CD155 (TIGIT), CD270 (TNFSFR14), GAL9等の抗腫瘍免疫の抑制分子の発現が、CD34- PhMCと比較してCD34+ PhMCにおいて有意に高いことを見出した。さらにそれぞれ初発症例よりも再発難治例により強く発現を認めた。また、初発時の骨髄組織を用いて、CD34+ phMCの局在を評価した結果、CD34+ phMCは、骨芽細胞および類洞血管内皮細胞で構成される正常造血幹細胞, HSCニッチではなく、骨髄内で不均一に集団を形成しながら存在していた。寛解導入による奏効とCD34+ phMC集団に含まれる免疫担当細胞を比較した結果、治療抵抗例では、CD34+ phMC集団にTregや骨髄由来抑制細胞MDSCな抑制性の細胞がより多く誘導されており、CTLの活性を抑制していると推測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、生体内に残存するMM幹細胞の抗腫瘍免疫回避機構について、MM幹細胞集団であるCD34+ phMCにおける免疫チェックポイント分子の網羅的発現解析、およびCD34+ phMCの骨髄組織における局在と微小環境を構成する免疫担当細胞の分布について解析した。その結果、CD34+ PhMCにおける免疫チェックポイント分子の発現はCD34- PHMCと比較して有意に高く、また初発症例よりも再発難治例により多く発現が認められた。一方、各々の発現は、症例ごとに差が認められており、このことは現状、実臨床において抗PD-1抗体単剤ではほとんど効果が認められていない一因と推測された。我々の研究を通して、抗腫瘍免疫を標的としたMMに対する治療戦略として、ある程度腫瘍量をコントロールした時点で使用すること、かつ症例ごとにどの免疫チェックポイント分子に対する阻害薬を用いるべきかを検討することの重要性が示唆されたことから、ほぼ当初の目標通りに研究を遂行できていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は、治療前、治療後の様々な深さの奏効後、再発例、無再発を維持しているMGUS-like例等異なる病態の骨髄からCD34+ phMCを単離し、Smart-SeqシングルセルRNAシーケンスを行うことで、臨床病態の違いにかかわるMM幹細胞の遺伝子発現の全貌を明らかにする。 また、CD34+ phMCにおける免疫チェックポイント分子の発現制御機構の解析を行うと同時に、CD34+ phMCにおいて制御標的となる免疫チェックポイント分子の探索を行う。具体的には、新規薬剤を含む様々な抗骨髄腫治療薬にて治療中の患者骨髄からCD34+ phMCを分離し、免疫チェックポイント分子の発現解析を行うことで治療薬と発現との関連を明らかにする。また、CD34+ phMC と同一症例から得たCTLとの共培養の系に、各免疫チェックポイント分子の中和抗体を添加し、培養上清へのサイトカイン放出能、CTLの増殖能等を評価することで、CTL 活性に及ぼす免疫チェックポイント分子を同定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度分は、主に試薬の購入に充当する費用として算出していたが、予定よりも少額に収まったため、次年度に繰り越すこととした。 次年度の遺伝子、タンパクの発現解析などに必要な試薬、細胞をFACSで単離するための抗体、実験動物等に研究費を使用する予定である。 また国内学会における旅費、論文投稿料にも使用する予定である。
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