研究課題
小児急性骨髄性白血病(AML)の次世代シーケンサーによるトランスクリプトーム解析、網羅的メチル化解析とAML関連343遺伝子のTarget シーケンス解析を用いた統合的解析により、新規遺伝子をみいだし白血病の発症、進展機序の解明と新薬の開発を目指す。まず小児AMLにおけるRAS経路遺伝子と予後との関連を検証し、PTPN11、CBL およびN 、K-RAS遺伝子 についてサンガーシーケンス法を用いて解析を行った。PTPN11は21例に、CBLは8例に、NRASは49例に、KRASは13例に、NF1は6例に変異がみられ、全体の24.7%にRAS経路遺伝子の異常を認め、これらは相互排他的であった。PTPN11変異例は5年EFSでは著明な有意差がみられ、NRAS変異例は予後良好であった。CBL変異陽性例と陰性例では予後に有意差は認めなかったが、全陽性8例中非CBF群の3例はいずれも再発を認めた。TET2は成人と異なり予後良好の傾向を認めた。さらに世界で報告が少ないNF1をSNPアレイ等を用いて検索し、異常例は予後不良であることを報告した(Haematologica,2021)。また、AML-05研究の一部の症例に対し343遺伝子のパネルシーケンスを用い、これまで小児AMLでの報告が少なかったKMT2C、PHF6、TET2、MGA変異に着目し解析を行い、KMT2C、PHF6変異が予後不良と関連することを報告した。さらにAML 48例でメチル化の機序の解析を進め、PRDM16遺伝子の本体に高頻度にメチル化領域を認め、これらがPRDM16高発現の機序に関与することが推定され更なる解析を続けている。またt(9;11)-AMLにおいてメチル化のパターンで予後が分別できることを見出し、さらに症例を増やして検討を進めており、これらを通じ新たな分子標的治療薬を見出す予定である。
2: おおむね順調に進展している
これまでに日本小児白血病リンパ腫研究グループ(JPLSG) AML-05研究の検体を用いRAS 経路関連遺伝子と予後との関連を検証し、PTPN11とNF1異常が予後不良因子、NRAS変異が予後良好因子であることを報告した(Haematologica, 2021)。また、AML-05研究の一部の症例に対し343遺伝子のパネルシーケンスを用い、これまで小児AMLでの報告が少なかったKMT2C、PHF6、TET2、MGA変異に着目し解析を行い、KMT2C、PHF6変異が予後不良と関連することを報告した。特に小児AMLにおけるメチル化の機序の解析を進め、PRDM16遺伝子本体に高頻度にメチル化を認めこれらがPRDM16高発現の機序に関与することが推定され、更なる解析を続けている。網羅的メチル化で、t(9;11)-AMLの層別化に関与する遺伝子を見出し、さらに解析の症例を増やして検討し、t(9;11)-AMLの発症、進展の機序の解明および予後との関連を進める予定である。これらを通じ分子標的療法を目指している。また、これまでにAML-05研究の一部の検体で343遺伝子パネルシーケンスを行い新たな予後因子の解明を行っており、研究はおおむね順調に進展している。今後、これまで予後不良因子とされているMonosomy 7に着目し、7番染色体上のいずれかの遺伝子異常が小児AMLにおいて重要な予後因子となる可能性を考え、臨床的意義のある遺伝子の同定を目指すとともに、それらの臨床的特徴や他の分子生物学的異常との関連を検証する予定であり、研究は順調であるとともに、さらなる発展が期待される。
AML-05研究の一部の症例に対し343遺伝子のパネルシーケンスを用い、これまで小児AMLでの報告が少なかったKMT2C、PHF6、TET2、MGA変異に着目し解析を行い、KMT2C、PHF6変異が予後不良と関連することを報告した(米国血液学会, 2019)。さらに小児AMLにおける予後不良因子のひとつであるTP53,RB1遺伝子とMonosomy 7に着目した。Monosomy 7は小児AMLの予後不良因子のひとつであり、成人AMLやMDS領域においても認められるが、その責任遺伝子は長年の解析によっても明らかになっていない。7番染色体上の遺伝子の詳細な解析により小児AMLにおけるMonosomy 7の意義や他の分子生物学的背景との関連、新たな予後因子の同定につながる可能性を考えている。この研究をさらに進め、新規遺伝子について機能解析等を行い白血病の発症と進展機序を明らかにする。特に網羅的メチル化解析でt(9;11)-AMLにおいて予後不良群を抽出可能な遺伝子群を見出しており、メチル化解析の症例をさらに増やして検討し、他の遺伝子との統合的解析により、t(9;11)-AMLの予後の指標を見出して治療法の決定に貢献し、さらに分子標的療法に通じる分子遺伝学的基盤を構築する。さらにt(9;11)-AMLとMLL再構成陽性AMLを40例を解析に加え関与する遺伝子を絞り込み、予後因子の抽出とその機序を検証する予定であり、世界でも最先端の成果が期待される。小児白血病の場合、発生や分化など生命現象に重要な遺伝子の変異が発症、進展に関与していることが多いことから、これらの小児AMLの発症機構の研究は、成人を含めたがん化のメカニズムを効率よく解明することが期待される。
今年度はこれまでに行われていた研究結果の結果と臨床像の関係を検討し、次の研究をどう絞るかに労力をかけていたために次の研究に使われる研究費が残る結果になった。今年度の研究の概要、結果および今後の研究の進展の項にも記載したが、かなり研究が進展し、さらなる症例の蓄積と検証が必要になってきたので、次年度は研究費が沢山必要である。まずは網羅的メチル化の症例数を増やすためにキットを48例分を2回必要である。これらを通じて今年度判明したPRDM16遺伝子高発現の機序を明らかにしてその機序の解明を通じて新薬の創出に向かう予定である。また、網羅的メチル化解析でt(9;11)-AMLにおいて予後不良群を抽出可能な遺伝子群を見出しており、メチル化解析の症例をさらに増やして検討し、他の遺伝子との統合的解析により、t(9;11)-AMLの予後の指標を見出して治療法の決定に貢献し、さらに分子標的療法を見出し、新薬の創出を目指したい。さらにt(9;11)-AMLとMLL再構成陽性AMLを40例を解析に加え関与する遺伝子を絞り込み、予後因子の抽出と細胞株を用いたin vitro の実験を行いその機序を検証する予定であり、可能であれば、さらにマウスを用いた実験も考えており、世界でも最先端の成果が期待される。
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