研究課題/領域番号 |
20K08749
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
馬場 智久 金沢大学, がん進展制御研究所, 准教授 (00452095)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 慢性骨髄性白血病 / ドナー細胞由来白血病 / 細胞質内DNAセンサー |
研究実績の概要 |
本年度は、ドナー細胞由来白血病(DCL)のマウス実験モデルを確立することを目的として、慢性骨髄性白血病(CML)マウス実験モデルに対して、白血病発症後にX 線照射し、CD45.1陽性コンジェニックマウスから採取した正常骨髄単核球を骨髄移植した。骨髄内、末梢血中の残存白血病細胞とCD45.1陽性ドナー由来細胞の変化を詳細に観察したところ、白血病細胞の消失にともなって、一旦は正常に再構築されたドナー由来造血細胞が、一定期間後に核異形を呈し、骨髄異形成症候群(MDS)様の重度の貧血を発症することを観察した。さらに確立したDCL実験モデルを用いて、病態生理学的解析を行うことで以下の点を明らかにした。 ①白血病細胞から恒常的に分泌される細胞外小胞に2本鎖DNA断片が高レベルに含まれている。②白血病細胞由来細胞外小胞を取り込んだ正常造血細胞では、細胞質内DNAセンサーシグナリング経路が活性化された結果、造血能が著しく抑制される。③骨髄移植後の骨髄内で、ドナー由来造血幹細胞において、細胞質内DNAセンサー経路依存的に核内DNA損傷が誘導される。 以上の結果から、CMLに対する骨髄移植治療後において、白血病細胞から分泌されるDNA断片を高レベルに含有した細胞外小胞が、白血病細胞の消失後も生体内に残存し、それを取り込んだ正常造血細胞に細胞質内DNAセンサー経路の活性化を介したDNA損傷を誘導していることが明らかになった。これらの分子・細胞機序が、DCL発症の原因の1つとなっている可能性が強く示唆されており、DCLの病態生理学的解明が期待されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の実験計画の中心であった、ドナー細胞由来白血病(DCL)のマウス実験モデルの確立については、予定通り遂行することができた。さらに当該実験モデルを用いたさらなる病態生理学的解析から、その病態解明のカギとなる白血病細胞から分泌される細胞外小胞の関与を強く示唆する研究成果をすでに得ている。また、細胞外小胞に含有されている2本鎖DNA断片が、それを取り込んだ正常造血幹細胞にDNA損傷を誘導するという分子機序も明らかにした。 DCLの病態生理学的解明と予防的治療戦略の開発を本研究全体の目標としているため、研究計画の大部分を達成することができたと考え、計画以上に研究が進行したと評価した。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は、当初の実験計画に記載した通り、ドナー細胞由来白血病(DCL)の発症において、病態生理学的関与が明らかになった遺伝子を分子標的とした、DCLに対する治療効果を検証する。 これまでの解析から、ドナー由来正常造血幹細胞の細胞質内DNAセンサー経路の病態関与が明らかになっているため、DNAセンサー経路において中心的な役割を担っているSTINGを分子標的として治療効果を検証する。STING遺伝子欠損マウスはすでに入手済みであるため、すでに確立したDCL実験モデルにおいて、STING欠損マウス骨髄から採取したドナー細胞を骨髄移植することで、DCLの発症予防効果があるかを検討する。 同時に、細胞外小胞分泌阻害剤であるGW4869についても、DCL実験モデルに投与することで、予防的治療効果があるかを検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に参加する予定であった学会がweb開催となり、旅費が不要になったため、次年度使用額が生じた。 令和3年度分として請求した助成金に加えて、本年度新たに追加した動物実験に使用する動物購入費用として使用する。
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