本研究テーマの昨年度までの研究成果から、白血病に対する造血幹細胞移植療法において、臨床的に問題視されている原因不明の二次性疾患であるドナー細胞由来白血病(DCL)の発症過程において、原発白血病細胞から分泌される細胞外小胞に、DNA断片が大量に含まれていること、さらには、それがドナー由来正常造血細胞に取り込まれることで、細胞質内DNAセンサーシグナリング経路を活性化し、正常造血能が阻害されることが原因の一つとなっている可能性を報告した。 本年度は、本研究計画を遂行することで新たに見出した、オートファジー阻害によって、白血病細胞に細胞質内DNA断片が異常に蓄積するという現象を基盤として、新たな骨髄性白血病治療戦略としての可能性について検討を加えた。その結果、オートファジーによる細胞内異物処理機構の初期段階である、オートファゴソームの形成を阻害する薬剤、MRT-68921やSBI-0206965を処置することで、白血病細胞質内にDNA断片が蓄積し、細胞質内DNAセンサーシグナリング経路が活性化されることを明らかにした。 さらに、同剤処置により、細胞質内DNAセンサーであるSTINGの活性化を介して、直接的な細胞傷害が誘導されることや、既存の治療法である分化誘導療法と併用することで、他のDNAセンサーであるAIM2依存的にインフラマソームが活性化され、白血病細胞の不可逆的な骨髄球分化が誘導されることを明らかにした。本研究で得られた知見から、骨髄性白血病細胞で、細胞周期の異常な亢進にともなって細胞質内に逸脱するDNA断片は、周囲の正常造血細胞機能にも影響する一方で、新たな白血病治療標的となりうる可能性も強く示唆された。
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