研究課題
同種造血幹細胞移植(HSCT)は、血液癌の根治的な治療法である。急性期を乗り切る症例が増えた一方で、長期サバイバーのQOLを著しく低下させる慢性GVHDに対する早期診断と治療法の確立は喫緊の課題である。これまでの研究において、慢性GVHDを発症した患者では、B細胞活性化因子(BAFF)の恒常的上昇、B細胞総数の低下、特にTransitional B cellの著減が報告され、その後、B細胞シグナルを標的としたイブルチニブが慢性GVHDの治療に有用であることが示された。しかしながら、慢性GVHDの病態基盤としてのB細胞恒常性異常の機序とこれへの治療的介入については十分な検討がなされていない。今回の研究では、移植急性期の免疫モニタリングに基づく確度の高い発症リスク評価と発症前からの先制治療の開発を目指す。今年度は、まず様々な移植法による移植を実施した患者を対象に、移植早期(2週、4週、8週、12週)の末梢血検体を解析した。移植後8週のB細胞サブセット解析にて、臍帯血移植およびPTCyハプロ移植では、Transitional B subsetが増加している一方で、ATGハプロ移植では、Switched/memory B subsetが特徴的に増加していた。Transitional B subsetとswitched/memory B subsetの増加は互いに排他的であり、増加しているsubsetによる類型化が可能であった。重要なことに、Transitional Bが低下するB細胞回復パターンは、移植後3ヶ月以降の慢性GVHDの発症に相関する傾向がみられた。これらの結果から、B細胞恒常性異常は実際の慢性GVHD発症よりもかなり早い段階ですでに形成されていることを示唆されるとともに、移植後急性期のB細胞解析が慢性GVHD発症リスク評価に有用なツールとなる可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、さまざまな移植法による移植を実施した患者から得られた臨床検体を後方視的に解析し、臨床移植後急性期の免疫モニタリングによるB細胞恒常性異常が、その後の慢性GVHD発症と関連するかを検討し、論文による報告した(Iwamoto et al, BMT 2020)。このため、研究は概ね順調に進展していると考える。
初年度に臨床検体解析から得られた結果を基に、今後は、B細胞恒常性異常から慢性GVHDを発症するマウスモデルを確立し、より基礎的な観点から、B細胞恒常性異常が生じるメカニズムの解明、および、これを標的とする治療介入法の探索を行なっていく予定である。
当初想定していなかった新型コロナウイルスに影響で、当該年度に開始を予定していたマウス実験の実施ができなかったため残額が生じたが、次年度に実施をするため、当該費用に支出する予定である。
すべて 2021
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Bone Marrow Transplant
巻: 56 ページ: 956-959.
10.1038/s41409-020-01100-0.