本研究では、多発性骨髄腫の病勢進行や薬剤感受性に関わる因子を同定する目的にて、骨髄および末梢血から、単核球DNAおよび血清中のcell free DNA: cfDNAを抽出し、病態や薬剤感受性に関わる遺伝子の変異を検索し、病勢の進行や治療薬の反応性との関連を調べることを目的としている。まずは、初発未治療の多発性骨髄腫患者さんの末梢血血清を中心に解析し、骨髄腫の腫瘍量と病勢に関連して末梢血のcfDNAの量が変化することを見い出した。また、その中でも、高リスク染色体異常であるt(14;16)転座すなわちIgH-MAF転座症例を中心に病態に関わる遺伝子変異を骨髄腫細胞と末梢血cfDNAの双方のドライ解析を行い、骨髄中形質細胞では同定しえなった複数の遺伝子変異・染色体構造異常が、末梢血中に同定されることを明らかにした。染色体高リスク病型では、骨髄穿刺検査を実施した腸骨骨髄部位以外の別部位の骨髄や髄外病変に別の進化クローンが存在し、それら進化クローンを含む遺伝子変異情報によって予後が規定される可能性を示した。 上記の高リスク染色体異常であるIgH-MAF転座症例の経時的な変化の解析(ダイナミックな変異解析)では、再発を繰り返して難治性状態へ進むにつれて、初発時に検出できなかった新たな遺伝子変異が骨髄中骨髄腫細胞と末梢血cfDNAの双方から検出された。その一方で、初発時に認められた遺伝子変異も同様に検出されたが、それらはTP53変異やRAS変異などの骨髄腫の進展過程で獲得されるドライバー変異が主である印象を受けた。さらに、PSMB8などのプロテアソーム関連遺伝子変異の出現も認められ、薬剤耐性との関連性も示唆された。今後、ダイナミックな変異解析の蓄積を通して、薬剤耐性やその後の予後に関わる遺伝子変異を末梢血中cfDNAから同定できる可能性が示唆された。
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