研究課題
多発性骨髄腫は、現在も約40%が6年以内に死亡する難治性の造血器腫瘍であり、さらなる治療成績の向上が望まれている。治療には抗がん剤と骨髄移植が施されるが、完全奏効に至ることはまれで、数年後には再燃し治療抵抗性を獲得する。特に、骨髄腫細胞が肝臓、皮下や軟部組織などに転移、細胞塊を形成しながら増幅する髄外増幅 が発症すると、さらに予後が悪化する。しかしながら、その発症機序は未解明である。私たちは、骨髄腫細胞株を骨髄ストローマ細胞と共培養、ここへ振盪によるシェアストレスを加えた結果、骨髄腫細胞同士が凝集した細胞塊の形成を見いだした。細胞塊形成のメカニズムを解析の結果、ストローマ細胞の産生するヒアルロン酸が骨髄腫細胞に発現するCD44に結合、ヒアルロン酸を介して細胞同士が凝集し細胞塊を形成する機序が明らかになった。ここで、髄外増幅を発症した患者血清中のヒアルロン酸濃度を解析の結果、髄外増幅を発症していない患者や健常人よりも有意に高濃度であることがわかった。また、全症例でCD44の発現、中でも細胞外領域の長いCD44バリアントの発現が検出された。なお、細胞塊形成はCD44バリアント発現細胞に特異的であった。続いて、CD44バリアント発現陽性の骨髄腫細胞株を移植したマウス骨髄腫モデルにヒアルロン酸を投与すると、ほとんどのマウスに髄外増幅の発症が確認されるとともに、生存期間が有意に短くなるなど、骨髄腫患者で見られる病態がよく反映されていた。以上の結果から、血中ヒアルロン酸濃度が高値の患者において、CD44バリアント発現陽性の骨髄腫細胞が骨髄外に流出すると、血流によるシェアストレスによって細胞塊 が形成、肝臓や軟部組織に生着して増殖するという髄外増幅発症機序を明らかにすることができた。
2: おおむね順調に進展している
令和3年度内の研究目標をおおむね達成できた。
令和4年度内は、骨髄腫細胞同士が凝集して形成した細胞塊の抗がん剤耐性獲得機序の解明を進める。耐性獲得の責任分子を標的とした治療薬を探索し、髄外増幅に対する有効性をマウスモデルにより検証を進める。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件) 学会発表 (4件)
Leukemia Research
巻: 111 ページ: 196672
10.1016/j.leukres.2021.106672
Haematologica
巻: 106 ページ: 3008-3013
10.3324/haematol.2021.278506
International Journal of Myeloma
巻: 11 ページ: 7-9
Leukemia
巻: 35 ページ: 1506-1510
10.1038/s41375-020-01035-x
Cancer Science
巻: 112 ページ: 194-204
10.1111/cas.14698