研究課題/領域番号 |
20K08762
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
佐藤 一也 自治医科大学, 医学部, 講師 (60382917)
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研究分担者 |
森田 薫 自治医科大学, 医学部, 助教 (20813223)
神田 善伸 自治医科大学, 医学部, 教授 (30334379)
遠藤 仁司 自治医科大学, 医学部, 教授 (50221817)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 造血幹細胞移植 / GVHD / 脂肪酸代謝 / ヒストンアセチル化 |
研究実績の概要 |
研究分担者の遠藤らは、長鎖脂肪酸のミトコンドリア輸送に必須であるカルニチン合成酵素を欠損した高度免疫不全マウス(BBOX-1-/- NSGマウス)を作成することに成功した。カルニチン欠乏食で飼育することで、組織及び血清中のカルニチンはほぼ完全に枯渇するため、移植片のミトコンドリア輸送及び脂肪酸を利用したATP合成を阻害することができる。一方、マウスは高度の免疫不全のため、移植片を拒絶できず、MHC不適合のT細胞を輸注することで、致死的な移植片対宿主病(GVHD)をきたす。そこで、BBOX1-/-マウスをレシピエントとしてヒトT細胞の移植を行うと、脂質利用障害によるエネルギー合成及び脂肪酸由来のアセチル基の供給の減少をきたし、GVHDの軽減と生存の延長が得られると考えた。仮説を検証するべく、BBOX+/+、BBOX+/-、及びBBOX-1-/-NSGマウスの三群にヒトT細胞を移植したところ、いずれのマウスも重度のGVHDを発症し、生存期間に有意差はなかった。臓器から分取したヒトT細胞はいずれも同程度の細胞増殖、分化、及び細胞障害活性を示し、脂肪酸のミトコンドリア輸送の阻害による影響はなかった。更に、ヒストンアセチル化の程度をウエスタンブロット法で比較したが、BBOX-1-/-マウスをレシピエントとしたヒトT細胞は野生型(BBOX+/+)マウス由来のT細胞と同程度のアセチル化がみられた。一方、細胞外フラックスアナライザーを用いて代謝活性を比較すると、興味深いことに、BBOX-1-/-マウスをレシピエントとしたヒトT細胞において、細胞外酸性化速度及び酸素消費速度の亢進がみられた。以上の実験結果から、生体内においては、解糖やグルタミノリシスといった他のカーボンソースを利用した代謝経路が脂肪酸代謝を代償し、エフェクター活性やエピジェネティクス制御を維持している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1. カルニチン合成酵素欠損マウス及びNSGマウスの供給が不安定であった
2. in vitroの実験結果と動物実験で得られたデータとに乖離があり、原因の同定と検証に時間を要した
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今後の研究の推進方策 |
1. 今年度よりカルニチン合成酵素欠損マウスは一定数の安定した供給が見込めるため、実験動物不足は解消されることが期待される
2. 脂肪酸欠乏条件において移植したT細胞のヒストンアセチル化に変化がみられなかったことは本研究の基盤となる仮説と合致しないが、他の代謝経路が代替的に活性化し、エピジェネティクス制御に関わることはあらたな知見となる可能性がある。本年度はメタボロミクス解析や各種代謝経路の遺伝子発現の定量的な比較を行うなどして、脂質欠乏を補完する代替経路を同定したい。
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