研究課題/領域番号 |
20K08763
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
服部 豊 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 教授 (20189575)
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研究分担者 |
山田 健人 埼玉医科大学, 医学部, 教授 (60230463)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ハイリスク多発性骨髄腫 / 上皮間葉系移行 / nucleophosmin (NPM)1 / ドラッグリポジショニング / チロシンキナーゼ阻害 / exosome / drug resistance / 細胞接着仲介薬剤耐性(CAM-DR) |
研究実績の概要 |
多発性骨髄腫は、新規薬剤の開発により予後が改善してきたが、大半の症例は最終的に治療抵抗性に陥る。中でも、del17(TP53遺伝子欠損)やt(4;14)を有する患者は、ハイリスク症例と呼ばれ、早期に再発しあらゆる薬物に抵抗性となるとともに髄外形質細胞腫を形成し手の施しようがなくなる。本研究では、このような髄外病変形成や治療抵抗性といった悪性形質の分子機構を解明し、その克服薬開発を目標とする。 我々は、骨髄腫細胞にOct-4やSox2といったリプログラミング遺伝子が高発現し、上皮・間葉系分子(EMT関連因子)が発現を誘導していることを見出している。すなわち、骨髄腫細胞では分化のリプログラミングが生じ、その結果、造血細胞としての特性を失い造血細胞としての上皮間葉系移行(EMT)が起きているのではないかというHematopoietic Epithelial or Mesenchymal Transition仮説を立てている。これが、どのような分子機構で薬剤耐性や固形癌の遠隔転移に如く髄外形質細胞腫を形成するのかを追及してゆく。 一方、創薬研究では、サリドマイド誘導体(IMiDsあるいはCRBN modulator)がCRBNへの結合性を有する限り、催奇形性への懸念が払しょくできない。そこで、我々はCRBNに結合しない新規フタルイミド体TC11を開発し、とくにハイリスク骨髄腫細胞への有効性を追求する。天然物komaroviquinonおよびその誘導体群から、チロシンキナーゼ阻害作用や免疫賦活作用を有する化合物(GTN057)を見出し、その分子薬理機構を追及する。さらに、既存薬ライブラリーをスクリーニングし、毒性が低くハイリスク症例にも有効な薬剤の探索も展開する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は、レナリドミド長期暴露による同薬耐性細胞を用いてトランスクリプトーム解析を行い、耐性細胞ではintegrinβ5およびβ7の発現が高いことを見出した。さらに、integrin阻害剤処理により感受性が回復したことから、細胞接着とレナリドミド耐性との関連が明らかになった(Hattori Y, et al. Int J Hematol. 2022;115:605)。次に、耐性株におけるエクソソーム分泌について検討した。いずれの耐性株も親株に比べてエクソソーム放出が著明に亢進していることがわかった。さらに、耐性株由来のエクソソームは、レナリドミド感受性細胞に薬剤耐性能を伝播するとともに、耐性化した細胞では培養皿への接着能が促進しており、エクソソーム関連薬剤耐性では細胞接着仲介薬剤耐性(CAM-DR)が重要と考えられた。次に、RNA sequenceを行い、耐性株では細胞内小胞輸送に関わるSORT1およびLAMP2の高発現を見出した。これら2遺伝子のノックダウン細胞では、エクソソーム分泌の低下、レナリドミドへの感受性の回復、接着能の消失が観察され、薬剤耐性形質がエクソソームを介して、耐性細胞から感受性細胞に伝播することが示唆された(doi.org/10.1182/bloodadvances.2021005772.)。 創薬研究では、GTN057は、マウス体内で速やかに加水分解を受け、その代謝産物もまた抗腫瘍活性を示すことを見出し、プロドラッグとしても抗骨髄腫効果を示すことがわかった。その薬理作用として、チロシンキナーゼ阻害作用を有することを明らかにし、とくにYxxxYYモチーフを有するc-MET等のキナーゼを抑制することがわかった。GTN057は、活性酸素種産生、抗腫瘍血管新生作用、免疫賦活能をも有しており、pleiotropicな抗腫瘍効果を示すことが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、これまでに樹立したレナリドミド耐性細胞やリプログラミング遺伝子導入細胞を用いて、SOX2-EMT関連因子/CXCR4系、integrin群による薬剤耐性能の獲得、xenograftモデルを用いた髄外病変形成能、EMT現象、細胞接着能について解析を進め、骨髄腫悪性化の分子機構を総括してゆく。LAMP2/SORT1依存的に分泌が亢進するエクソソームの含有因子を探索し、薬剤耐性や細胞接着との関連も明らかにしたい。 創薬研究では、リン酸化が起きない変異NPM1遺伝子導入細胞を用いて、TC11による多極体形成やM期細胞周期停止が阻害されるかを観察する。これにより、NPM1がハイリスク造血器腫瘍治療の標的分子となりうるかについて考察を加える。天然物コマロビキノンの誘導体GTN057は、pleiotropicな薬理作用を有することがわかったが、その詳細な分子機構を探るために、トランスクリプトーム解析をすでに開始している。また、drug repositioningで見出された薬剤についての検討も進んでおり、予備実験ではオートファジー後期阻害作用を有することも明らかになってきた。透過電子顕微鏡による検討では、オートリソソームの過剰蓄積が観察されており、その分子機構を探る。これらにより、M蛋白過剰発現によりproteotoxicな状態にある骨髄腫に対し、オートファジーが新たな治療標的となりうるかについて検討を進める。
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