研究課題/領域番号 |
20K08765
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研究機関 | 国立研究開発法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
山形 和恒 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, 研究員 (70311412)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 急性骨髄性白血病 / 分子標的 / スクリーニング / MLL-ENL / SREBF1 |
研究実績の概要 |
本研究申請は、急性骨髄性白血病(AML)の分子標的を単離するScreening系の構築、及び有用な分子標的の単離を目的としている。マウスMLL-ENL白血病細胞を用いたスクリーニングから、既に同定済みの102遺伝子から21 遺伝子がCRISPR/Cas9を用いたスクリーニングで分子標的候補遺伝子として単離された。その中からSREBF1が有力な分子標的となるのではないかと考え解析を進めている。理由としては、Srebf1ノックアウトマウスは胎生12.5から14.5日ほどで死亡する胎児が増えてくるものの、生まれた個体については問題なく生育する事から、正常細胞の生育には大きな影響を与えない事が期待できるからである。現在、マウスMLL-ENL白血病細胞、ヒト白血病細胞株を用いてSREBF1をshRNAを用いてノックダウンするとアポトーシスが誘導され、in vitroでの細胞の増殖が大きく低下する事が分かった。実際、Srebf1をノックダウンしたマウスMLL-ENL白血病細胞をB6マウスに骨髄移植すると、コントロール実験と比較してMLL-ENL白血病発症が有意に遅延した。更に、ヒト白血病細胞株MOLM13を用いたCDXの系においても、SREBF1をノックダウンすると有意にAMLの発症が遅延する事から、SREBF1はヒトのAML発症においても確かに必要な因子である事が強く示唆されている。これまでにSREBF1がAMLを制御するメカニズムには、SREBF1が制御するコレステロール代謝経路が重要な役割を果たしている事が分かっている。SREBF1は、細胞内のコレステロール合成の亢進とLDLレセプターの発現上昇を介したLDLの取込み亢進の両方を介してAML細胞内のコレステロール量を制御してAMLの悪性化、及びAML細胞の維持に貢献している事が明らかとなっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでにマウスMLL-ENL白血病細胞を用いたCRISPR/Cas9スクリーニングが終了し、分子標的候補遺伝子を102遺伝子中21遺伝子まで絞った。更に、スクリーニングが終了した時点で、分子標的として4つの遺伝子が適当である事が分かった。その中から、SREBF1に注目し研究を進めている。これまでに、マウスMLL-ENL白血病細胞やヒト白血病細胞株を用いた実験から、SREBF1が様々なタイプの白血病細胞のin vitroでの生育に必須である事が明らかとなってきた。更に、マウスMLL-ENL白血病発症モデル系とヒト白血病細胞株MOLM13を用いたCDXの系を用いて、SREBF1がin vivoでのヒトAMLの発症に必要である事を明らかとしている。AML細胞を維持するメカニズムには、SREBF1が制御するコレステロール代謝経路が重要な役割を果たしている事も明らかとなっている。SREBF1は、コレステロールの細胞内での合成とLDLレセプターの発現亢進を介したLDLの取込みの促進を両方とも制御する事によって、AML細胞内のコレステロール量を増大させてAML細胞の維持に貢献している。どちらか一方のみを阻害してもAML細胞は生存する事ができる事から、両方とも同時に阻害する事がAML細胞を排除するには重要である事が分かってきている。ここまでに得られた知見から、両方の代謝経路を制御するSREBF1を阻害するというアプローチは有用なAML治療戦略になると考えている。一方、RNA-sequence解析からSREBF1はHematopoietic stem cellのagingやClonal hematopoiesisに関与する事が明らかとなってきた。コレステロール代謝が、どのようにこれらの経路へ繋がって行くのか解析を進める予定である。また、これらの結果から、概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
SREBF1はAML細胞の中で必須の機能を果たしており、その機能が亢進してよりアグレッシブな白血病の表現系を示す。これらAMLの悪性化、及びAML細胞維持機能にはコレステロールの代謝経路が関与しており、SREBF1はコレステロールの細胞内での合成とLDLレセプターの発現亢進を介したLDLの取込みの両方を促進してAML細胞内のコレステロール量を増大させる事によってAML細胞の維持に貢献している。一方のみを阻害してもAML細胞は生存し得る事から、同時に阻害する事がAML細胞を排除するには重要である。このような結果から、両方の代謝経路を制御するSREBF1を阻害するアプローチは有用なAML治療戦略となる。興味深い事に、RNA-sequence解析からSREBF1はHematopoietic stem cell agingやClonal hematopoiesisに関与する事が分かってきた。これらの現象は、self-renewal能の亢進、myeloid biased differentiationなどの表現系を示す前白血病状態と言える。これまでに、年齢と共にTET2やDNMT3Aへの遺伝子変異が蓄積し骨髄内でclonal expansionを起こし、更なる遺伝子変異の蓄積によりAMLへと進展して行く事が推察されてきた。一方、我々の結果はSREBF1の発現亢進による細胞内のコレステロール量の増大はclonal hematopoiesis様の表現系を促進してAMLの発症に寄与する可能性を示唆している。今後は、細胞内のコレステロール量の増大がどのようにclonal hematopoiesis様の表現系に繋がるのか検討する。特にコレステロールは、lipid raftとしてシグナル伝達経路に重要な役割を果たす。SREBF1が制御するシグナル経路とAML発症の関与に付いて重点的に解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該助成金の額が少額であったので、翌年度分の助成金と合算した上で、物品費、旅費、又はその他の経費として使用する予定である。
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