研究課題/領域番号 |
20K08767
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
住田 孝之 筑波大学, 医学医療系, 客員教授 (00183054)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | シェーグレン症候群 / 膠原病学 / iPS細胞 / Th1細胞 / Treg細胞 |
研究実績の概要 |
シェーグレン症候群(SS)は、口腔内乾燥感、乾燥性角結膜炎、関節炎を主症状とする全身の炎症性疾患であり、厚労省指定難病の一つに認定されている免疫難病である。SSの発症には、各臓器に浸潤したCD4+T細胞の役割が重要である。私たちは浸潤T細胞抗原受容体(TCR)及び対応抗原の解析から、アセチルコリン作働性ムスカリン受容体3(M3R)を認識するTh1細胞及びTh17細胞がSSの発症に重要な役割を果たしていることを明らかにしてきた。 本研究では、M3R反応性Th1及びTh17細胞の機能をTreg細胞に変化する誘導分子を検索し、疾患特異的治療戦略の開発を目的とする。その方法は、SS患者からM3R反応性T細胞(Th1、Th17)を分離し、iPS細胞化する(T-iPS)。次にT-iPS細胞をin vitroで抑制性T細胞(Treg)に分化誘導する。iPS細胞を利用することにより同一TCR遺伝子を有するM3R反応性T細胞の機能転換(Th1、Th17→Treg細胞)が可能である。Th1、Th17、Treg細胞の発現遺伝子に関して網羅的に解析することによりTreg細胞への機能転換分子を検索する。得られた分子の機能をin vitroにおける分化誘導系において、Th1→Treg細胞、Th17→Treg細胞への機能転換分子であることを確認する。 本研究のユニークな点は、T-iPS細胞を用いる事でT細胞の再構成されたTCRが保持され、M3R抗原特異性が維持される実験系の確立ができ、T細胞の機能転換に関わる分子の検索が可能となる点である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)SS患者(HLA-A24, A31, DRB1 14:54, DRB1 15:02)末梢血から、M3R反応性Th1細胞(IFN-γ産生)をフローサイトメトリー法を用いて分離し、35個のクローンを樹立した。2)1)で樹立した5個のTh1細胞クローンに山中4因子をセンダイウイルス法で遺伝子導入し、8個のT-iPS細胞株を樹立した。3)樹立したT-iPS細胞が有するTCR遺伝子が、iPS細胞化する前のTh1細胞クローンと同一の再構成したTCRVβ遺伝子、TCRVα遺伝子であることをsequence法で確認した。4)T-iPS細胞からSac法を用いてCD34+細胞を誘導し、GM-CSF/M-CSFで14日、次にGM-CSF/IL-4で7日刺激を加えることでDC細胞への分化誘導に成功した(Stem Cell Reports. 2017)。この細胞を応用することによりT-iPS細胞をin vitroで分化誘導することが可能となった。5)T-iPS細胞をin vitroでCD34+CD43+細胞に分子誘導し、NSGマウスに細胞移入することにより、60日目のマウス末梢血においてヒト由来CD4+T細胞への分化を確認することができた。しかし本研究は再現性に乏しかった。一方、ヒト臍帯血からのfoxp3+Treg細胞への誘導には成功した(Clin Exp Immunol. 2021)。6)In vitroにおいて、ヒトmemory CD8+T細胞からCDK8/19 inhibitor(CCT251921)を用いてCD8+Treg細胞に誘導することに成功した(in preparation)。7)50%のSS患者末梢血にM3R反応性Th17細胞が存在することをELI-SPOT法で明らかにしてきた(J Clin Invest Insight. 2020)。
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今後の研究の推進方策 |
1.Th1→Treg細胞プロジェクト: 1)CD4+Treg細胞の誘導:T-iPS細胞をin vitroでCD34+CD43+細胞に分子誘導し、NSGマウスに細胞移入することにより、in vivoにおいてヒト由来CD4+T細胞及びCD4+Treg細胞を誘導する。2) CD8+Treg細胞の誘導:T-iPS細胞を対象として、CDK8/19 inhibitor(CCT251921)を用いてin vitroにおいてCD8+Treg細胞を誘導する。3)Th1→Treg細胞転換分子の解析:M3R反応性Th1細胞及びT-iPS細胞から誘導されたM3R反応性Treg細胞を対象として、RNA-seq法、DNA array法などを用いて、Th1細胞をTreg細胞に機能転換する分子Xを解析する。4)分子Xの機能を検証:in vitroにおいて、M3R反応性Th1細胞に分子Xを添加することによりTreg細胞に機能転換することを確認する。 2.Th17→Treg細胞プロジェクト: 1)M3R反応性Th17細胞由来T-iPS細胞の樹立:SS患者末梢血からフローサイトメトリーを用いてM3R反応性Th17細胞を分離しT-iPS細胞を作成する(東大医科研谷口英樹研究室との共同研究)。2)CD4+Treg細胞、CD8+Treg細胞の誘導:上記1-1)、1-2)と同様の方法により、T-iPS細胞からCD4+Treg細胞、CD8+Treg細胞を分化誘導する。3)Th17→Treg細胞転換分子の解析:M3R反応性Th17細胞及び誘導されたTreg細胞を対象として、上記1-3)と同様の方法でTh17細胞をTreg細胞に機能転換する分子Yを解析する。4)分子Yの機能を検証:in vitroにおいて、M3R反応性Th17細胞に分子Yを添加することによりTreg細胞に機能転換することを確認する。
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