研究実績の概要 |
(i)セルグリシンの炎症性肺疾患における役割: セルグリシンは主に免疫細胞においてユビキタスに発現していることが知られている。本研究では、肺中の免疫細胞の中で好中球が最も高くセルグリシンを発現していることを明らかにした。また肺から回収した好中球は刺激により、細胞外にセルグリシンを放出することがわかった。そこで、セルグリシンの好中球性の肺疾患の役割を明らかにする目的で、野生型マウスにLPS気道投与による急性肺傷害/急性呼吸窮迫症候群のモデルを作成した。LPS投与後に肺胞洗浄液を回収して、セルグリシン濃度を計測したところ、投与後24時間をピークとして増加し、その後徐々に減少した。またセルグリシン欠損マウスにも同様にLPSの経気道投与を行ったところ、野生型マウスに比べて肺胞洗浄液中の好中球浸潤数が有意に減少していた。 (ii)重症COVID-19患者の末梢血単核球におけるセルグリシンの発現上昇:COVID-19の重症化メカニズムを解明する目的で、SARS-CoV-2に感染した患者の末梢血をSingle cell RNA-seqにより解析を行なった(Iwamura C, Proc. Natl. Acad. Sci., 2022)。軽症者と重症者(死亡)の1細胞レベルでの遺伝子発現の違いを調べると、重症者血小板活性化遺伝子の中でセルグリシンの発現が最も高いことがわかった。その発現細胞は主に自然免疫系の細胞であったが、特にnon-canonical monocytesにおけるセルグリシンの発現上昇が重症者において顕著であった。マウスにおいて肺の炎症の誘導にセルグリシンが必須であることから、non-canonical monocytesの産生するセルグリシンがCOVID-19における肺炎に寄与し、重症化をもたらす可能性が示唆された。
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