研究課題/領域番号 |
20K08773
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
橋本 求 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 教授 (60512845)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 全身性エリテマトーデス / 腸内細菌叢 / Th17細胞 / ZAP70 / TCRシグナル |
研究実績の概要 |
本研究では、ZAP70変異によるTCRシグナル伝達不全の結果、B6背景においてSLEを自然発症する動物モデル(B6SKGマウス)を用いて、遺伝因子と腸内細菌叢とのクロストークがSLE発症に与える影響を明らかにすることを目的とした。 昨年度までの研究で、B6SKGでは、腸内細菌叢のdysbiosisが起きていること、その結果、Segmented Filamentous Bacteria (SFB)という腸内細菌が増多しており、SFBはTh17細胞分化を促進することでSLEの発症を促進していることを明らかにしてきた。 本年度は、ZAP70変異が腸内細菌叢のdysbiosisにつながるメカニズムとして、ZAP70変異により胸腺におけるT細胞の正負の選択の閾値が変わり、SFBなどの病原性腸内細菌に対する特異的なTCRを有するT細胞の胸腺選択が妨げられ、腸内細菌に対する免疫応答が低下しdysbiosisにつながっていることを見出した。このことを、B6SKGマウスとSFB特異的なTCRを発現するTCRトランスジェニックマウス(7B8)との交配により証明した。SFBに対する特異的TCRを発現するB6SKGマウスでは、胸腺選択の偏移によるT細胞レパトワの変化の結果、腸管パイエル板において腸内細菌に対するIgA産生をヘルプするfollicular helper T細胞(Tfh)が減少しており、その結果、SFBなどの腸内細菌に対して高親和性に結合するIgAの産生が低下しdysbiosisにつながっていた。さらに、胸腺におけるTCR遺伝子の再構成の結果、正の選択を受けなかったSFB特異的TCRは、TCRβ鎖の再構成によって自己反応性TCRへと変化し胸腺選択をエスケープし、これが自己免疫の発症へとつながっていた。このように、ZAP70変異によるTCRシグナル伝達不全が、腸内細菌叢のdysbiosisを介してSLE発症へとつながるメカニズムについて、英文論文にまとめて発表した(Shirakashi, Hashimoto, et al. Arthritis Rheumatol 2022; 74(4): 641-653.)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究成果をまとめ、Arthritis Rheumatology誌に掲載され、同誌のClinical Connectionでも論文紹介されたため。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究で、TCRシグナル伝達不全が腸内細菌叢のdysbiosisへとつながり、dysbiosisの結果増多したSFBという腸内細菌がTh17細胞分化を誘導し、SLEの発症を促進するメカニズムが明らかになった。これは遺伝因子と腸内細菌叢のクロストークによる自己免疫疾患の発症メカニズムの一例である。 現在さらに、Th17が自己抗体依存性の病態であるSLE発症を促進するメカニズムとして、Th17細胞が自己抗体のIgGの糖鎖修飾を変化させ、Fc部分の脱シアル酸化が起きることで、自己抗体の炎症惹起能力が上昇しSLEの病勢が悪化することを見出し、研究をすすめている。ヒトSLE患者の臨床検体の解析も加えて、論文化する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度はこれまで準備してきた試薬で実験をすすめることができたため、余った予算を次年度に繰り越した。2022年度は、研究代表者が2021年4月から移動した大阪市立大学(2022年度より大阪公立大学と名称変更)における研究環境が整ってきたため、本研究のために予算を執行する予定である。
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